「政治は数であり、数は力、力は金である」。かつて自民党最大派閥の長として絶大な権力を振るった田中角栄が語ったように、集団における意思決定は数の論理(多数決原理)に基づいている。たしかに、同じ意見を持つ者同士が結束し、統一見解を集約して集団を形成すれば、影響力を行使しやすくなるだろう。しかし、最大派閥というものは利益誘導に走りやすく、しばしば行きすぎた行為で少数意見を抑圧し、多数決に基づく決定を「正義」であるかのように振りかざす。このような悪影響を放置すれば、組織の命取りになりかねない。

派閥はこれまでさまざまな観点から批判され、多くの人々が派閥に対して悪いイメージを持っている。はたして、派閥は悪なのか。山本七平は、派閥解消など空事にすぎず、派閥は永続すると論じた。だが、日本陸軍史上、最大といわれる皇道派と統制派との抗争では、最大派閥の皇道派が跡形もなく消滅した。これは、派閥をめぐる問題の本質と功罪を考えるうえで好例である。