第4次産業革命の進展に伴い、従来の経済成長モデルが通用しない「不連続の時代」に突入した。日本の製造業がグローバル競争に勝ち残るには、IoT活用によるビジネスモデルの変革、デジタルトランスフォーメーションが不可欠となっている。IoT事業を通じて、自らこれを実現しようとしているのが東芝だ。単なるプラットフォーマーではなく、顧客企業との「共創」によってビジネスイノベーターを目指すという同社のビジョン、事業戦略について、インダストリアルICTソリューション社IoT事業開発室の沖谷宜保室長に語ってもらった。

日本の製造業が直面する
IoT時代の課題は何か

東芝 インダストリアルICTソリューション社 IoT事業開発室 沖谷宜保 室長

 IoT、AI、ビッグデータといったテクノロジーを活用した競争力の強化は、成長戦略の“一丁目一番地”であるとともに、わが国企業にとって喫緊の課題となっている。しかし、「過度な期待」が込められたバズワードと見なされることも多いIoTを使って何ができるのか。これをイメージして、具体的な行動に移すことができている企業はまだまだ少ないのが現状だ。

「世間で騒がれているから、当社でも『IoTをやれ』と社長から指示があり、工場長が『一体どうしたら良いのか』『私たちは何をすれば良いのか』と、問い合わせてくるケースもありました。彼らはIoT活用がビジネスに本当に役に立つのか半信半疑で、実際の投資となると二の足を踏んでしまいがちです」。こう話すのは、東芝インダストリアルICTソリューション社IoT事業開発室室長の沖谷宜保氏。

 IoT活用の本質を理解するには、第4次産業革命が産業構造にもたらすインパクトや製造業のメガトレンドを認識すべきと沖谷氏は言う。「ハードウェア技術中心の時代から、制度改正や機能改善に柔軟に対応できるソフトウェア技術が競争優位を決定づける時代へシフトし、ものづくりの領域ではデジタル化、ソフトウェア化、ネットワーク化が進行しています」

 デジタル化によって、サイバー空間上で現実世界の再現が可能となり、何百万回ものシミュレーションや過去の緻密な再現も容易になっている。ソフトウェア化することで、ハードウェア上に固定されていた機能・仕様を自由に変えられるようになった。スマホの例では、膨大なアプリが短いサイクル、多頻度で開発され新たな顧客価値を創出している。そしてネットワーク化により、端末や装置が相互につながることで、単体では成しえなかったことを実現してくれる。

「GEのジェットエンジンやミシュランのタイヤを例に取るまでもなく、製造業は、製品を売り切るモデルから、製品利用を通じて顧客が得る価値を売るモデルへ転換を迫られており、この転換においてIoT活用の重要度が増しています」と沖谷氏は話す。