アクティビストが接触してきたときに、すべきこと
アクティビストが実際に接触してきた場合、経営幹部がどう対応するかは、キャンペーンがどの程度協調的または敵対的になるかを大きく左右する。私たちの調査で判明したところでは、キャンペーン4件のうち3件は協調的に始まるが、その半数はやがて敵対的になる(図表3)。これが示すのは、経営陣はアクティビストの提案を承認するかどうかと同じくらい、アクティビストとどのように関わるかを考えるべきだということだ。
図表3
対応策を練るうえで役立つ、ヒントをいくつか挙げよう。
対応チームを編成する
アクティビストへの対応を開始する際、経営幹部は臨時対応チームを結成すべきである。チームの支援を受けずに対応する経営幹部は、最初の交渉の重要度を軽んじる、取りうる全ての選択肢を把握しない状態で議論に臨むなどしてミスを犯しやすく、そのせいでアクティビストの活動に一気に拍車がかかる恐れがある。
ある事例では、あるヘルスケア企業の取締役会会長が大手アクティビストによる攻撃的な交渉を受けた際、アクティビストを無視するという一方的な決定を行ったことから、挑発されたアクティビストが取締役会の支配を目指して、キャンペーンを行うに至った。
対照的に、別の事例では、あるグローバルな産業用機械企業のCEOは、自身とCFO、法律顧問、IR担当者、アナリストを含めた極秘の作業部会を速やかに招集した。作業部会がアクティビストの提案の効用とリスクを迅速に査定し、妥結に向けた計画を作成したことで、CEOは、株主の多数から自身の計画に対する支持を積極的に取り付け、アクティビストのキャンペーンに妥結することができた。
こうした対応策のばらつきは、感情に駆られたものであることが多く、経営幹部を重大なリスクにさらす。チームの構成と統率を事前に決めることは、深刻な結果につながりかねない一方的な判断を避けるうえで、非常に有効になる。チームの構成員が事前に指名されて周知となっていることは、それほど重要ではなく、経営幹部チームが対応をどのように統率するかについて、一連の明快な指針が用意されていることのほうが大切だ。明快な統率と対応プロセスは、熾烈な対立で不用意な判断をすることへの最大の防御となる。
また適切なチームは、たとえばアクティビストが最初に接触する相手、さらに、その提案の種類によって異なってくる。接触先が取締役会であれば、独立した外部有識者を含めたチームを求めるかもしれないが、CEOの場合は、対策の分析、プランニング、およびコミュニケーションのために、より公開性の低い、あるいは極秘の社内チームを求めるかもしれない。
アクティビストによる提言の種類も、対応チームの編成に強く影響する。機関設計の変更や財務戦略ではなく、新しい戦略的方向性に関する提案を検討するためには、チームにさまざまな知見が必要になるためだ。
社内チームの構成員には当然、経営幹部、取締役、法律顧問、IR担当者が含まれる。この過程には、外部のアドバイザーも不可欠だ。真っ先に声がかかることが多いのは法律アドバイザーだが、会社の主導権を守りながら株主還元を進めるにあたって、戦略、財務、そしてコミュニケーションの専門家すべてが重要な役割を果たす。
多くのアドバイザーは、ポイズンピル等の防衛策を打ち出すだろう。しかし、アクティビストは露骨な企業買収ではなく、その他の大株主からの支持を求めているため、このアプローチは誤った防衛措置に映りかねない。
あるグローバル小売業者の経験は、この関係を浮き彫りにしている。敵対的株式公開買付の際に、株主の持ち株を希薄化するポイズンピルを取締役会が採択した後も、関係株主はキャンペーンを続行した。会社側がその意図を明確にして、自社の計画に対する株主の支持を勝ち取るまで、アクティビストは引き下がらなかった。
投資家への情報提供を支える戦略・コミュニケーションの専門家が加わることは、経営側が会社の支配を維持するうえで重要な役割を果たす。
アクティビストを理解する
多くの交渉がそうであるように、どんな行動を取るかはどんな相手と関わるかによるため、対応チームは個々のアクティビストの戦術、株主を巻き込む手法、過去の実績、そして業界における経験に対する見方を迅速にかためる必要がある。
敵対的または協調的なアクティビストについて明確な定義は存在しないが、予備交渉の性質、提案の綿密さ、そして価値創出の実績は、今後直面することになるキャンペーンの種類を示す重要な指標だ。
キャンペーンが敵対的になりがちなのは、たとえば戦略やM&A関連の提案ではなく、定款の改正など、アクティビストの目的がガバナンスの変更または法的問題である場合だ。それ以外は、一部のアクティビストは、より協調的なやり取りを経営陣と行う傾向にある。
彼らは経営部門に対する書面、および経営幹部との個別の対話によって、キャンペーンを開始する。それほど協調的ではないアクティビストは、公開書簡または株主総会招集通知など、いっそう対立的な手法でキャンペーンに打って出る。より敵対的なアクティビストは、キャンペーンの最大7割であからさまに闘争を迫ったり、委任状争奪戦を始めたりするが、より協調的なアクティビストは、キャンペーンの7割で協力的な姿勢を維持すると、私たちの分析は示している。
同様に、一部のアクティビストは、標的とする戦略やオペレーションの課題点について詳細かつ綿密な意見を示すが、その他はリターンを捻出するための曖昧な主張や挑戦的な意見しか出してこない。前者のケースでは、株主還元の拡大に関して、経営部門は有益な視点を得られる。後者では、アクティビスト提案は長期的な健全性に対する重大なリスクになりかねない。
経営幹部へのインタビューによると、経営者が13D(四半期ごとの法定開示書類)の提出前にアクティビストとの対話に応じた企業は、アクティビスト意見の重要な背景事情や知見を得ることが多いようだ。また何度も耳にしたのは、協力または妥結に向けた初期対応は協調的な関係につながり、一方で、十分な対応の欠如やアクティビスト提言の完全な却下は、より敵対的な力関係につながるということだ。
アクティビスト提案を理解する
対応チームは、アクティビストの査定に加えて、その主張を評価し、価値創出に向けた可能性を理解し、また、企業にとってのリスクを見積もる必要がある。
たとえば、ある産業用機械製造業の経営者は、M&Aのデューデリジェンスと類似した構成で、社内外の専門家による対応チームを結成した。この臨戦態勢での対応により、彼らは自社の経営計画に照らして、アクティビストの提案の直接的および間接的なプラス効果とコストを評価し、同じくらい厳格に個々の経営計画を再検討し、最善の道を探り出そうとした。最終的に、アクティビストによる提案のかなりの部分を受け入れるよう取締役会に勧告した際には、経営者はみずからの経営計画にあてたのと変わらない、細やかな対応を行った。
対応プランを練る
インタビューした経営幹部の大半は、アクティビストの最初のコミュニケーションは対立的になることが多く、礼を欠くこともあると述べた。私たちの考えでは、この点は気にせず、アクティビストに建設的な対話を促すことが重要だ。アクティビストに対して礼を失さず、建設的かつ迅速に――数日内に、続いて数週間以内に――対応すること、さらに、相手の提案の優れた点についてエンゲージメントを図ることは、大きな混乱を避け、経営の主導権を維持する助けになると、私たちの調査は示している。
それに勝るとも劣らず重要なのは、経営陣の計画と比較したアクティビストの提案に関して、他の大株主を率直かつ積極的な対話に引き入れることだ。
ほとんどの場合、アクティビスト投資家は大株主に自身の是非を問い、支持を求めてロビー活動を行う。アクティビストとの交渉による妥結に成功した最近のある事例では、重要な成功要因は明確な経営計画、新規チームメンバーの加入、そして、同社の経営実績の事例を含めた集中的な投資家向けのアウトリーチ活動だった。このアウトリーチに応じて、大株主はアクティビストを支援するかわりに経営陣に味方した。
こうした株主対話に消極的でありながら、アクティビストとの交渉に有利な結果を期待するのは、経営陣としてナイーブというものだろう。
筆者陣は、本記事に対するビル・ハエット(Bill Huyett)、および、コナー・キーホー(Conor Kehoe)の貢献に感謝する。
※本稿は2014年3月のMcKinsey on Finance Issue 50に掲載された記事を翻訳したものです。原文は下記よりご参照ください。
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