デロイト トーマツ グループは2020年1月、東京・丸の内にあるイノベーション創発施設「Deloitte Greenhouse」にて、「経営としてのデジタルトランスフォーメーション(dX)」をテーマにイベントを開催した。日本を代表する企業においてdXを推進する立場にある経営幹部らが集まり、dX推進に向けて果たすべき役割や、dX実現に向けた効果的な取り組みの方向性について、議論を交わした。

dX推進組織は海兵隊であるべき

 プログラムの第1部として、東京大学大学院工学系研究科教授の森川博之氏が、「『デジタル変革時代に求められる企業経営』としてのデータドリブン経営」をテーマに基調講演を行った。

「デジタル変革時代に求められる企業経営」として、森川氏は3つポイントを述べた。1つ目は、「すべてを再定義する」である。

「デジタル変革と言われても、正直何をしていいかわからないという人も多いだろう。言われてみれば当たり前だが、言われるまでわからないのがデジタルによる変革であり、イノベーションだ。とにかく頭を柔らかくして考えていくこと。そのためには、多様性も重要だ」

東京大学大学院工学系研究科教授
森川博之

 MaaS(Mobility as a Service)のスタートアップ企業の動画を紹介しながら、森川氏は「私の頭は固かった」と振り返った。自動運転というと、既存の自動車やタクシー、トラックの自律走行をイメージしがちだが、動画で紹介されている自動運転車は箱型をした小型のモジュールで、そのモジュール同士が連結したり離れたりしながら、利用者を目的地まで送り届ける。目的地が異なる人は別のモジュールに乗車し、ある地点までは連結走行しながら、分岐点に着くとモジュールが切り離されて、別々の目的地に向かう。「思ってもみない自動運転に気づかされた」と森川氏は打ち明ける。

 こうした「気づき」を説明するには、洗濯機が世の中に与えた影響を考えてみるといい。かつて、洗濯は重労働であり、その労働負担を減らすために開発されたのが洗濯機であり、社会に大きなインパクトを与えた。だがそれだけでなく、衛生観念が一変されたことで、人々は毎日洋服を着替えるようになり、衣料品の市場が大きく拡大した。洗濯機が発売された当時、衣料品市場が広がることを予測していた人はいなかっただろう。

「デジタルも同じような側面がある。最初はアナログでやっている作業をデジタル化する。労働を減らすというフェーズからスタートし、その次のフェーズで何らかの影響力を及ぼし、利用者が一気に拡大する。しかし、最初はそこに気づかないので、常に頭を柔軟にして思考することが大切だ」

 2つ目は、「強い思いで海兵隊として働く」。ダーウィンは著書『種の起源』で、「最も強いものが生き残るのではなく、最も賢いものが生き延びるのでもない。唯一、生き残るのは変化できるものである」と述べた。森川氏は、継続的に変化するには、海兵隊のような組織がふさわしいと言う。

「海兵隊はコンパクトでフットワークが軽い。戦場や紛争地では先陣を切るが、それだけにリスクも高い。強い思いやこだわりがないと、リスクを承知で先陣を切るのは難しい。デジタル変革も強い思いや夢を持って挑戦し、たとえ失敗しても褒めてあげてほしい」。それが、デジタル推進組織に対する最大の支援になる。

 海兵隊のように機動的に動くには、PDCAサイクルよりもOODA(観察・気づき・判断・行動)ループが適しているという。PDCAを回すことで改善は進むが、それだけでは変化への活動は生まれないからだ。変化という活動を行わざるを得ない環境をつくるためには、OODAループが重要だ。