2021年4月に発行された『SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の時代 究極の生き残り戦略としてのサステナビリティ経営』(日経BP)が好調に版を重ね、サステナビリティ経営の指南書として経営者らに広く読まれている。同書の共著者であるPwC Japanグループの坂野俊哉氏と磯貝友紀氏に、サステナビリティ経営の本質とは何か、そしてSXをいかに実現するかを聞いた。

あらゆるステークホルダーが動き始めている
──『SXの時代』(以下本書)を上梓された目的について教えてください。
坂野 経営とは外部環境の変化をきちんと読み取り、それに的確に対応していくことです。今日、明日の小さな変化を予見することは難しいですが、長期的な構造変化はある程度予測することができます。その最たるものが世界的な気候変動や人口増加であり、このままでは地球も社会も持続可能ではないということが科学的に予測されています。長期スパンで見ると、起きる可能性が極めて高い構造変化にどう対応するかは、経営にとって最も重要なアジェンダ(課題)です。
しかし、実際にはどこか他人事としてとらえている企業が残念ながら少なくない。それはなぜかという根本的な疑問が執筆の出発点でした。
一方で、こうした地球規模での構造変化に対する問題意識は世界中で高まっており、各国政府や、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などの国際的イニシアチブのほか、ESG投資を強める投資家や金融機関、あるいはNGOなどさまざまなステークホルダーが、ハードロー、ソフトロー*1を含めて、地球や社会の持続可能性を高めるための取り組みを強化しています。消費者や企業の従業員も、環境や社会を犠牲にして利益を上げようとする企業には、厳しい態度を取り始めています。
こうした多様なステークホルダーを見据え、サステナビリティという重要な経営アジェンダを自分事としてとらえて、その解決に向けて一刻も早く動き出していただきたいと考えたのが、本書を執筆した動機です。
磯貝 本書は大まかに言うと、サステナビリティが重要となっている背景(WHY)、サステナビリティの何に対応すべきか(WHAT)、サステナビリティ経営を具体的にどう進めるか(HOW)という順序で構成されています。
私たちは10年以上にわたって経営者の方々と議論を重ね、2015年からは定期的なラウンドテーブル(円卓会議)を開くなど、サステナビリティに関する議論を進めてきました。そうした中で、この2~3年は「サステナビリティの重要性はわかったけれども、どう進めればいいのかを知りたい」という声が高まっていました。そこで、本書では特にHOWの部分に重点を置きました。ですから、「本物のサステナビリティ経営をどう進めるか」を理解していただくことが、本書の重要な目的と言えます。
──読者からの反響はいかがですか。
坂野 版を重ねるごとに反響が大きくなっており、「全役員の必読書にした」「直接話を聞きたい」といった非常にポジティブな反応が多いですね。
本書への反響を通して、サステナビリティが重要なアジェンダだと感じている経営者が日本でも多数いらっしゃるということがわかりました。ただ、それをどう言語化し、社内でどう共有していくかという点で悩んでいる方が多かった。そういう意味で、経営者の方々の問題意識にうまく合っていたのかなと思います。
私が個人的にうれしかったのは、「コンサルタントが書く本は中立的、客観的な姿勢を重視するあまり、味気ないものが多いが、この本には思想がある。だから読んでいて面白い」という、経営者の方からいただいたコメントです。
磯貝 先ほど申し上げたように私たちは約10年にわたって経営者の方々とサステナビリティについて議論を続けてきましたし、私自身は20年以上この課題に取り組んでいます。ですから、本書には私たちのパッションが詰まっています。
もう一つ、長い間議論を続ける中で、サステナビリティ経営の推進を阻むポイントが何かということも見てきました。日本企業のサステナビリティ経営の課題や問題点を分析すると、「初期理解不足型」「アンチ西洋・日本礼賛型」「現状肯定型」「形骸化型」「トレードオフの壁直面型」に分類できます。
それぞれの課題の類型に対する具体的な対応策や、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)に取り組む国内外の先進企業事例や経営者インタビューも豊富に盛り込みました。
サステナビリティをめぐる社会情勢が次々と進展するなか、企業にとってSXは生き残りをかけた経営戦略であると言えます。その実現に向けた実践の書としていただけるのではないかと自負しています。