知性の幻想

 創造的思考は論理的思考よりも認知機能への負荷が大きい。左脳と右脳にまたがる広範囲の部位を使い、ワーキングメモリー(作業記憶)により多くの作業を要求する。その意味で、創造的思考はより高次のスキルであり、実際問題として、人のアイデアに分析を加えるほうが、複数の情報源から新たなアイデアをつくり上げるよりも簡単ということになる。

 見込みのある解決策を提示された時、何らかの側面を掘り下げて、うまくいかない理由を見つけるほうが簡単だ。また、その案の一側面にだけフォーカスしていれば、ワーキングメモリーはごく少数の論点に注意を払うだけで済む。

 これに対し、異なる複数のアイデアや視点を組み合わせる場面では、脳はフル回転する。実行系と想像系の両方のネットワークを駆使して、さまざまな組み合わせを次々に試しながら、うまくいきそうな方法を探り当てる。作業の間ずっと、あらゆる要素を保持しておく必要があるため、ワーキングメモリーへの負荷が大きい。

 人々の認知機能の働きに応じた割合で給与が支払われれば理想的だろうが、現実には「アイデアを生み出す人」よりも「批評家」に高い報酬が支払われる傾向がある。その理由は、後者のほうが知的に聞こえるからだ。

 書籍のレビューを分析したハーバード・ビジネス・スクール名誉教授のテレサ・アマビールの研究では、否定的なレビューを書いた人は好意的なレビューを書いた人と比べて、あまり好ましい人物ではないが、より知的で能力が高いと評されたという。

 スタンフォード大学経営大学院教授のジェフリー・フェッファーとスタンフォード大学 スクール・オブ・エンジニアリング教授のロバート・サットンは、これを「能弁の罠」と呼ぶ。否定的な批判や難しい話が多い人のほうが有能に映るため、組織から高く評価される、という罠だ。

 このような「知性の幻想」の影響は軽微なものに思えるかもしれない。しかし、実は組織に致命的な影響をもたらす。

 スティーブ・ジョブズがピクサーを買収した当時、同社は極めて優秀な人材を抱えていたにもかかわらず、大ヒット作を出せずにいた。行きすぎた批判によって創造的な発想が潰されている状況に気づいたジョブズは、批判をする際は見込みある解決策も同時に提案しなければならないという「プラシング」の方針を打ち出した。このシンプルな戦略が人々を批評家からクリエイターに変貌させ、チームのダイナミクスを劇的に変え、映画『トイ・ストーリー』の製作に端を発する快進撃へとつながっていった。

 リーダーは、多様なグループから成る環境でアイデアがどう議論されているかに注意を払うことで、集団的創造性を高めることができる。各自が自分のアイデアを主張するのではなく、互いの意見を踏まえて議論するようチームメンバーにうながすべきだ。

 これは、提案に欠陥があっても盲目的に受け入れるべきだ、という意味ではない。有用な点は認めつつ、プラシングやそれに類するイエス・バット・アンド法のアプローチを活用して弱点を改善するために、オープンマインドで提案に向き合うべきだ。