コロナ禍がもたらしたパラダイムシフトにより、企業はこれまでにないスピードで変革することを求められている。それは、企業変革を支援するPwCコンサルティングにとっても、価値提供のあり方やその提供スピードを抜本的に変革しなくてはならないことを意味する。
Design、Disruption、Dimensionの「3つのDによる変革プラン」で、みずから大きな変革に踏み出したPwCコンサルティングは、企業と社会のトランスフォーメーションをどう加速させようとしているのか。同社常務執行役の安井正樹氏に聞いた。

コロナ禍で「加速した流れ」と「逆回転した流れ」
――企業はコロナ禍前からSDGs(持続可能な開発目標)・ESG(環境、社会、ガバナンス)、デジタル化など中長期的な諸課題に直面していましたが、コロナ禍によって経営環境がどう変わったと見ていらっしゃいますか。
安井(以下略) コロナ禍によって、パラダイムシフトが起きているととらえています。パラダイムシフトの流れは2つあって、一つは、いままで歯車が回っていた方向により速く回転する「加速した流れ」。もう一つは、歯車が反対方向に回る「逆回転した流れ」です。
前者の例として、デジタル化があります。コロナ禍以前から多くの企業で中長期的な課題とされてきましたが、コロナ禍で一気に加速したことはご存じの通りです。対面営業ができないためデジタルを駆使して営業改革を行ったり、デジタル化でリモートワークを可能にして社員の働き方の多様化を推進したりするといった流れです。
残念ながら、「加速した流れ」が世の中のネガティブな要素を増幅した側面もあります。社会の分断や二極化、ポピュリズムの台頭、持てる者と持たざる者の格差、デジタルデバイドなどです。
一方、「逆回転した流れ」の例としては、グローバル化が挙げられます。コロナ禍前までは、サプライチェーンのグローバル化は当たり前で、そのほうがタイムリーかつ効率的にモノを各国に届けられることを誰もが疑っていませんでした。ところが、医療や国防など国益に直結するものは、調達から製造までのプロセスを国内で完結させるべきだという議論が高まり、グローバル化からブロック化への流れが強まっています。
また、日本国内の人口動態においても中央から地方への逆回転が起きており、東京都の推計人口(2022年1月1日時点)は26年ぶりに減少に転じました。新型コロナウイルスの感染リスクやリモートワークの普及などにより、転出人口が増えたことが主な理由です。
こうした、正の回転と負の回転が同時に起きているパラダイムシフトが、企業にとって機会と脅威の両方を創出しています。
企業がこれを新なビジネス機会ととらえれば、たとえば、デジタル化を加速して顧客体験価値を高めることなどによって、競争優位性を築くことが可能です。逆に脅威としてとらえ、社会課題に対する本質的な取り組みを強化する例も増えています。GHG(温室効果ガス)の排出削減に向けた取り組み、人権に配慮したオペレーションやサプライチェーンの構築などは社会的要請であり、対応を怠ったり誤ったりすれば、企業は信頼を失うことになります。
新たなビジネス機会を創出する、あるいは社会課題の解決に取り組んでいくためには、やはりデジタルによる変革が欠かせません。いまやデジタル化のスピードが企業の存続を左右するケースもあり、世の中のあらゆる企業において、「情報産業化」が進んでいると私は見ています。
たとえば、製造業は単に製品を製造しているだけではなく、情報を使いながら効率的にモノをつくっています。あるいは、モノづくりをやめて、サービスや体験を売る情報産業へとビジネスモデルをシフトする企業も増えています。いま企業に問われているのは、情報産業化を加速させることによって現業を変革していく、そうしたトランスフォーメーションをいかにアジャイルに行えるか、ということだと思います。