インパクトを出すために「大きく」「長く」「多角的に」課題を解く

――安井さんご自身としては、「3つのDによる変革プラン」というビジョンに基づいて、具体的にどのような価値創出にチャレンジしたいとお考えですか。特に注力したい分野を含めて教えてください。

 私個人としても、PwCコンサルティングという組織においても、「社会課題の解決」に注力し、これまでにない新たな価値を創出していくことです。

 企業はみずからを変革すると同時に、攻めと守りの両面から社会課題を解決することが求められています。実際に私たちのクライアントも、デジタルや情報を駆使した社会課題の解決へと大きく舵を切っています。私自身、複雑な社会課題の解決をクライアントに寄り添って支援することで、PwCの「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」というパーパスを体現できているという実感を持つことができます。

 PwCコンサルティングでは、企業の社会課題の解決にあたって、3つの視点を持って支援し、社会的インパクトと経済的インパクトを拡大していきます。

 1つ目は、物事を「大きく解く」こと。戦略立案、変革の実行、情報開示など一部のフェーズだけを支援するのではなく、大きく課題を捉え、PwC Japanグループが有する多様なケーパビリティを結集させ、包括的に支援することで、企業が創出するインパクトをより大きなものにします。

 GHG排出量の削減を例に取ると、まず現状を可視化し、2050年までにカーボンニュートラルを達成する戦略をクライアントと一緒になって策定します。また、その実行やトランスフォーメーションの段階では、サプライチェーン全体のGHG排出量を可視化し、サプライヤーのGHG排出量削減のための支援をし、場合によっては、再生可能エネルギーや省エネ設備の投資に必要な資金調達もサポートする必要があります。そして、そうした取り組みについて、ステークホルダーに対し情報開示することも求められます。それらをPwC Japanグループが一体となって総合的に支援し、課題を大きく解いていきます。

 2つ目は、「長く解く」ことです。GHGの削減ばかりでなく、人口減少や医療費の問題など、社会課題の多くは一朝一夕には解決できないものばかりです。街づくりのようなテーマの場合は10年単位の期間を要するため、長く解くという視点が欠かせません。そのためには、クライアントとビジョンを共有して、一緒に解いていくことが重要です。

 たとえば、地方の医療費、社会保障費をどう削減し、社会保障制度の持続可能性を高めるかという課題があります。こうした大きな課題に対しては、戦略立案だけですべてを解決できるというものではありません。実際に課題が生じている現場で、地域の企業と一緒になって、PHR(パーソナルヘルスレコード)の管理・運用に必要なプラットフォームを構築したり、民間のプレーヤーが多数参画できるようにソーシャル・インパクト・ボンド*を組成したり、テクノロジー企業を巻き込んで各種情報を収集、分析し、アドバイスするなど、どのような“座組み”を形成するかが非常に重要になります。社会課題の本質的な解決は1社だけでは不可能なので、複数企業で知恵を絞り、幅広い関係者と一緒に大きな課題を長く解いていくことが求められています。

*民間資金を活用して社会課題解決事業を実施し、その事業成果を資金提供者に還元する仕組み

 そして3つ目が、「多面的に解く」です。社会課題の解決には、経済価値との両立が難しい領域もあり、社会にとっていいことだとわかっていても、企業としては経営資源を投入することが難しいケースがあります。

 PwC Japanグループは主要なコンサルティングファームとしては唯一の公益財団法人となるPwC財団を有しており、私はその代表理事も務めているのですが、財団を通じてNPOやソーシャルスタートアップの支援なども行っています。

 たとえば、外出が困難な身体障がい者に対して就労体験の場を提供したいといったケースでは、(テクノロジーで身体能力や知覚などを拡張させる)人間拡張の技術とアイデアを持った企業の参画を募り、助成金を支給することで、体験した方々の精神的な健康や幸福感の充足に貢献するための支援を行いました。このような、経済原理では手が届かない領域に対しても、財団を通じて課題の特定や解決の支援をできることが、私たちの強みだと自負しています。

 変革のリーダーとして、クライアントとともに変革を社会実装し、攻めと守りの両面から社会課題を解決していくためには、全体を俯瞰した「斜め上の視点」から優先課題を特定し、経営資源をそこに集中させる必要があります。

 繰り返しになりますが、業界や専門性の軸だけで物事をとらえていたのでは、急速に変化する社会における多様かつ複合的な課題を解くことはできません。特に社会課題の解決に向けては、業界や専門性の垣根を取り払い、最初から「斜めのアジェンダ」として課題を定義し、クライアントと協働しながら、世の中の変革に先んじて取り組んでいきます。そうすることで、私たちがPwCのパーパスを実現し、社会における信頼を構築できるよう尽力していきます。

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