「産業の血液」である金融が、デジタルディスラプション(創造的破壊)の大波に揺れている。その影響は金融機関に留まらず、あらゆる産業に波及する。金融のデジタル化は、金融業と非金融業との境界を曖昧にし、異業種同士の合従連衡が進む。

さらには、集中から分散への流れをいっきに加速させる「Web3.0」が、金融の秩序を根底から揺るがそうとしている。そこには新たなリスクと機会が混在する。企業はデジタル金融の大波にどう備え、成長の機会をとらえるべきか。デロイト トーマツ コンサルティングの赤星弘樹氏と、モニター デロイトの田口優氏に聞いた。

フィンテック第3の波「組み込み型金融」が本格化

――金融サービスに新たなテクノロジーを組み合わせた「フィンテック」(Fintech)という言葉が米国で使われ始めたのは2000年代初頭といわれますが、21世紀に入ってから現在まで、金融サービスはどのように変化してきたのでしょうか。

赤星 フィンテックには3つの大きな波がありました。1つ目は、銀行、証券など既存金融サービスのネット化。2つ目は、スタートアップによる単品のフィンテックサービスの提供です。そして、2020年代以降本格化している第3の波が、「エンベデッドファイナンス」(組み込み型金融)です。これは、非金融事業者が既存のサービスに、バンキング(預金)やペイメント(決済・送金)、レンディング(与信・貸金)といった金融サービスをシームレスに組み込むことで、顧客体験を向上させるサービス提供のことです。

 2019年11月、米ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)のパートナーが、「すべての企業がフィンテック企業になる」と発言しましたが、その翌年からフィンテック第3の波として組み込み型金融が注目を浴びることになりました。

 デジタル技術の進展によりAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)が広く普及したことで、非金融事業者がこれを活用し、金融サービスを簡易に提供できるようになりました。加えて、ユーザーはモバイルファーストになり、慣れ親しんだスマートフォンアプリで使える利便性の高い金融サービスへの期待が高まってきたことから、組み込み型金融のサービスが相次いで生まれています。

田口 組み込み型金融はプロダクトアウトではなく、マーケットインの思考が重要です。各企業がユーザー視点に立ち、新しいサービスをつくりたいと考えた時に、自社に足りないケイパビリティ(組織能力)やリソース(経営資源)が明らかになることも多く、それをどう補完していくかが課題になります。その結果、必要となるケイパビリティを持つ外部の企業と連携するケースが多いのも組み込み型金融の大きな特徴です。

 そのケイパビリティが重要であるほど、外部企業に対して資本を注入し、結び付きをより強固なものにしたいと考えるのは自然な流れで、M&A(合併・買収)に至る事例も増えています。

 組み込み型金融の構造としては、①ユーザーへのサービス提供者である「ブランド」、②ブランドに対して金融機能を提供する「ライセンスホルダー」、③ブランドとライセンスホルダーの両者間をつなぐシステムの提供者である「イネーブラー」という3つの役割があります。

 実際に我々が支援させていただいた事例でも、たとえば、B2B中心のイネーブラーがB2Cまで事業領域を広げるためにブランド企業を買収したケースがあり、組み込み型金融の発展とM&Aには密接な関係があります。

――日本でも通信キャリアや航空会社、小売業などがペイメントやバンキングといった金融サービスをAPI経由で提供する動きが出てきており、非金融事業者がそうした金融機能を組み込んだ新たなサービスの展開を始めています。企業が組み込み型金融によって提供価値を高めていくうえでの課題は何でしょうか。