「ユースケースの構築力」と「テクノロジー人材の確保」が日本の課題

赤星 日本では「ユースケースの構築力」と「デジタル人材の確保」が大きな課題といえます。ユースケースの構築力とは、ユーザーが自社サービスに対して感じているペイン(痛点、不満)を解消するために、金融機能をいかにスムーズに組み込めるということです。新たな収益源の獲得を目的に、事業者側の都合で金融機能を組み込んだとしても、結局のところ使ってもらえるサービスにはなりません。 

赤星 弘樹
デロイト トーマツ コンサルティング
執行役員
フィンテック/ブロックチェーン領域リーダー。金融インダストリーの新事業開発、フィンテック活用、デジタル戦略、業務改革、ITガバナンス、組織改革などさまざまなプロジェクトに従事。異業種サービスが金融機能を組み込んで提供する組み込み型金融や、ブロックチェーンをベースとしたWeb3.0/分散型金融(DeFi)など新たな成長領域に対するグローバル動向調査・分析、事業戦略立案も担当。共著に『パワー・オブ・トラスト』(ダイヤモンド社、2022年)、『デジタル起点の金融経営変革』(中央経済社、2021年)など。

 たとえば、米ウーバー・テクノロジーズのアプリを使えば、配車を予約し、目的地まで移動して、決済も自動で行われます。このような便利なサービスは誰もが使いたくなるものです。国内でもメルカリが提供する決済サービスのメルペイは、C2C(消費者間)で取引した金額が残高としてプールされ、コンビニなどで利用できます。与信を供与して後払いにも対応するなど、生活に溶け込んでいます。

 このようなユースケースを構築するには、顧客接点である現場とフィンテックの双方の知見を融合させることが不可欠ですが、日本ではサービス提供者であるブランドがテクノロジー人材の不足という問題を抱えており、APIをうまく使いこなしてサービスを構築できる企業が少ないのが実情です。

田口 異なる業界の複数の企業がエコシステムを形成して、組み込み型金融を用いたサービスを提供することもありますが、そうした場合は、エコシステムの中で自社が果たすべき役割を明確にしたうえで、必要な契約上の権利を主張していくことも大事だと思います。

 また、エコシステムの“扇の要”となるリーダー企業には、自社の利益と参加企業の利益のバランスを調整しながら、エコシステム全体をコーディネートしていく役割が求められます。

田口 優
デロイト トーマツ コンサルティング
モニター デロイト マネジャー
M&A(合併・買収)ユニットにて、外部企業との提携を通じた新規事業開発や投資意思決定支援を専門に担当。近年では、企業が新たなコア事業創出のために行うスタートアップ投資、ジョイントベンチャー設立、M&Aといった場面で、将来シナリオ分析、事業性評価、投資採算分析、契約条件検討等のアドバイザリーを通じ、不確実性を伴う投資に関して、クライアントに伴走しつつ意思決定を支援している。

――金融は「産業の血液」と例えられるほど、すべての産業活動に欠かせないものであり、組み込み型金融はMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)やスマートシティの開発などにも大きな影響を与えそうです。デジタル金融サービスの視点から見た今後の企業連携、業界横断のエコシステム形成の動きについて展望していただけますか。

赤星 MaaSにしても移動サービスだけでは広がりがなく、収益化していくことは容易なことではありません。しかし、金融機能を取り込んで、観光や地域振興などにウイングを広げていくことで、地域課題や社会課題の解決にもつながります。

 たとえば、地域データプラットフォームを構築すれば、医療、健康、移動、生活などさまざまなサービスを結び付けることができます。高齢者の方が医療機関に移動する際、モビリティサービスを使ったらポイントを付与し、地元の商店街で買い物ができるようにするなど、複合的な方法でマネタイズ(収益化)していくことが可能になります。

 地域通貨や地域ポイントを軸にしながら利用者のデータを蓄積していくことで、住民一人ひとりに対してより適切なサービスをレコメンドできるようになり、サービスの価値向上も期待できます。そうした点からも、デジタル金融はスマートモビリティやスマートシティ開発と非常に相性がいいといえます。

――昨今話題の「Web3.0」(ウェブスリー)の中でも、最も有望な市場であり、かつ既存の金融機関に破壊的な影響をもたらす可能性があるとされているのが「DeFi」(分散型金融)だといわれています。なぜ、DeFiがそこまで注目されているのでしょうか。Web3.0にDeFiが不可欠な理由とは何ですか。

赤星 DeFiとは自律分散型金融のことで、特定の主体を介することなく金融取引を実現するサービスを指します。ブロックチェーン(分散型台帳)上のプログラムで取引が完結するため、金融取引コスト低減とファイナンシャルインクルージョン(金融包摂)の実現という2つの観点から、大きなメリットがあるといえます。

 次世代インターネットといわれるWeb3.0との関連で補足すると、これまでのWeb2.0の世界は米国のGAFAに象徴されるプラットフォーマーが支配していました。Web3.0はブロックチェーンによってそこから脱却し、各自がデータや権利を所有し、ウェブに参加していく世界観を実現するものです。

 そうした世界のキーワードが、「トークンエコノミー」です。中央集権がない代わりに、サービスを持続可能とする金銭的価値を流通させる仕組みが必要になりますが、通貨においては暗号資産(仮想通貨)が、デジタル資産においてはNFT(非代替性トークン)がそれぞれ用いられます。

 DeFiは、この暗号資産やNFTの交換・貸出・保証などが可能な市場で、Web3.0の世界において金融機能を提供しています。2022年5月末時点の市場規模はグローバルで約26兆円ですが、成長スピードが極めて速いことから、市場関係者の大きな関心を集めています。