仕事におけるバーチャルとリアルの本質

 メタバースはまた、オンラインでの交流とバーチャルコラボレーションのための格段に充実したテクノロジーを実現し、私たちの働き方を変えることが期待されている。これも大きな進歩だが、やはり物理的空間に人々が集まる必要性を代替するものではない。

 ここで重要な示唆がある。メタバースで先頭に立つ企業は、独自のリモートワークのテクノロジーを開発し広めているにもかかわらず、主要都市における自社の物理的な存在を維持するだけでなく、拡大しているのだ。

 メタとグーグルはシリコンバレーに本社を維持し、メタバース技術のスタートアップの圧倒的多数がサンフランシスコ・ベイエリアにある。グーグルは、カリフォルニア州サンノゼの中心部に新たな大型の都心キャンパスを建設中で、ニューヨーク市内の拠点も大幅に拡張した。メタもマンハッタンの拠点を拡張している。

 グーグルは2021年の声明で、「協働しコミュニティを築くために直接集まることは、グーグルの文化の中核であり、当社の未来にとって重要な要素となる」と述べている。

 とはいえ、メタバースは人材プールへのアクセスの拡大において、重要な補完的役割を担う。専門職やフルリモート職の補充、多様な従業員基盤の確保、雇用主が就職希望者に直接会う労力を投じる前に、バーチャルで接触できるようにする、などだ。

 交流とつながりは対面によって生じるが、より日常的なコミュニケーションに企業がどう対処するかという点でも、メタバースは重要な要素となる可能性が高い。その際、企業は従業員との社会契約を見直す必要があるだろう。住む場所の選択については自由裁量を増やす一方で、バーチャルでは難しい文化的結束、メンターシップや学習については、促進する機会をさらに増やすべきだ。新たな社会契約に向けて、リモートワーカーの給与引き下げによる節約分を、意図的な機会創出の施策に再投資する必要があるかもしれない。

 これらが意味するのは、オフィスが何のためにあり、どこで物理的な存在が求められるのかを、企業はいっそう戦略的に考える必要があるということだ。オフィス空間をいくつか手放せば不動産の費用は節約できるが、主要な人材集積地では物理的な存在が必要となり、人材とつながりを築いて協働するためには、さらに優れた物理的空間が求められる。

 メタバース時代のオフィスで重視されるのは、仕事の遂行よりも、つながりの形成と交流だ。言い換えれば、キュービクルよりもカフェや食堂である。

 これらの都市空間はメタバースへの「ポータル」(入り口)としても機能するかもしれない。従業員に、自宅からメタバースにアクセスできるようになる前に、オフィスで最先端のVR・AR技術を使わせるのだ。そうすればメタバースと物理的オフィスは互いに対立せず、知識労働の未来を拓くために連携を深めていくだろう。

未来に向けての戦略

 上述してきたことを総合すると、メタバース時代の到来によって、企業の立地はビジネスにおいてますます重要な成功要因となっている。経営者はこれに備え、立地を企業戦略の中心に据える必要がある。メタバースの事業戦略・技術戦略と並行して、それらを補完する立地戦略が求められるのだ。その立地戦略は、最高経営幹部が検討すべき優先事項へと格上げし、バーチャルとリアルの空間・拠点の補完的利点に焦点を当てるべきである。

 対処すべき問題は、現地と遠隔地での主要人材の確保、人材プールにおける「生活拠点」居住者と「ビジネス拠点」居住者の配分、そして「従業員はキャリアを通して、高コストおよび低コストの地域を含む複数の拠点で働くことができる」という前提に基づく、会社と従業員の相互期待を規定する新たな社会契約などである。

 メタバースがもたらす、過去に類を見ないほどの大きな技術的変化は、私たちが生活や買い物、仕事の場として慣れ親しんでいる現実世界に極めて近い仮想世界の創出を期待させる。

 とはいえ、それによって都市での物理的な存在が不要となるわけではない。メタバースが人や活動やビジネスの地理的分散を可能にする一方で、都市は対面でのつながり、エンゲージメント、協働、イノベーションの拠点として不可欠であり続け、おそらく今日以上に重要性が高まっていくはずだ。

 企業は人材に接触する際、小規模な都市や町も含め、採用候補者がいる地元や希望勤務地で会うことができれば、より充実した人材プールにアクセスすることが可能になる。その結果、企業にとってはより満足できる水準の従業員を獲得でき、そのためのコストも少なくて済むだろう。ただし最終的には、メタバースの存在によって、主要なスーパースター都市の重要性は以前よりも高まる可能性が高い。ますます分散する従業員たちは、現実世界で一堂に会し交流する場所を必要とするからだ。

 人間は、社会的動物である。現実世界で互いの存在を求め、一緒にいることを求める。メタバースは、ライブイベントや体験、デジタルアートやアバタースキンなど、仕事と消費における特定の側面へのアクセスを効果的に促進し拡大することができる。しかし、顔を合わせて交流し、つながることへの基本的欲求を代替することはけっしてなく、それはビジネスの場でも同様だ。

 結局のところ、メタバースは物理的拠点や都市の代替ではない。双方は互いに補完し合うことで、よりよく理解され機能するのだ。


"The Metaverse Will Enhance - Not Replace - Companies' Physical Locations," HBR.org, August 16, 2022.