質問に対する会社側の返答の明確さに注意を払う
筆者が行うコーチングのクライアントであるジョーダン(仮名)が、採用面接を受けた時のことだ。会社側から内定を出す準備が整ったと言われた段階で、ジョーダンは報酬の詳細について明確な情報を求めた。ところが、採用担当者は「詳細を知らせる」と何度も言いながら、結局、連絡をすることはなかった。
この会社はジョーダンの能力とポストへの適性をほめたたえていたが、採用担当部署に透明性が欠如していたことから、信頼を失ってしまった。ジョーダンはこの会社の企業文化が不透明だと感じ、そのせいで心理的安全性が損なわれた。
「信頼とは求職者と雇用主の間で交換される通貨のようなものです。曖昧さは権力闘争と同義であり、駆け引きの兆候です」と、コックスは説明する。
面接の際には、面接官があなたの質問に対して具体的な条件と回答を提示して、心理的安全性を作り出してくれるかどうかを確認すべきだ。
雇用主があなたの要求に応じるかを見極める
面接の段階で、その企業が心理的に安全な職場かどうかを判断する方法が、もう一つある。柔軟性と多様な働き方について従業員のニーズにオープンに対応してくれるかどうかを確かめることだ。
マーケティングの専門家であるスコット(仮名)は、内定をもらった代理店との交渉に乗り出した。自分から主体的に転職先を探していたわけではなかったので、彼は手持ちのカードをテーブルに並べ、未来の雇用主に対して自分が働くための条件を提示したのだ。娘のサッカーの試合に間に合うよう、在宅勤務をする場合がある、出張は勤務時間の30%以内、自分の思うようにプロジェクトを管理する自由がほしい……。
会社側はスコットの条件をすべて飲んでくれた。これは、この企業が、従業員の希望や条件に応じようとする意欲のある、心理的に安全な組織であることの証だ。
企業文化について質問する
面接の場で自由回答型の質問をしてみよう。そうすることで、採用チームのメンバーが自社や企業文化について感じていることが浮き彫りになり、その組織が心理的に安全か否かが見えてくる。
どのような組織も面接の段階では、できるだけよい印象を与えたいと考えるため、企業文化について尋ねても、ありきたりな回答しか得られないかもしれない。それでも、以下に挙げた質問をすれば、その会社の哲学と実際の姿についての情報が浮かび上がってくることだろう。
(1)個人やチームが失敗した時について教えてください。何が起きましたか。
これは心理的安全性の核心に迫る質問だ。失敗を許容し、失敗に対してペナルティを課さない組織では、従業員が報復をおそれず、リスクを取るために必要な心理的安全性が担保される。
(2)新規採用者の一般的な受け入れ態勢はどのようなものですか。また、どのようにしてリモート勤務の従業員に企業文化を浸透させていますか。
この質問への回答──特に雇用主がリモート勤務の従業員のニーズに、具体的な対応を取っているか──は、企業が従来と異なる物事の進め方に、価値を見出しているかどうかの指標となる。
ハイブリッド環境やリモート環境で新規採用者を受け入れるためには、透明性を高め、事務処理よりも個人的なつながりを重視するなど、個人と組織の目標達成に役立つような新たな制度設計が必要となる。
もし、この質問への回答が従来と何一つ変わっていないように思えるのなら、その組織は包括性や心理的安全性よりもプロセスを優先しているのかもしれない。
(3)入社前に知っておきたかったことは何ですか。よい点も悪い点も含めて教えてください。
この質問をすることで、心理的安全性を揺るがしかねない社内政治や気難しい社内関係者の存在に気づくなど、会社や部署、役割について思いがけない洞察を得られるかもしれない。
また、こうした質問は、マネジャーが事前に答えを用意している可能性が低く、台本なしで回答するため、組織の価値観が浮き彫りになりやすい。
(4)この会社では、ただの「よい社員」ではなく「素晴らしい社員」とはどのような人ですか。
この問いへの答えによって、その会社の価値観と成功の定義が明らかになり、企業文化や優先される資質が見えてくる。否定的な答えや皮肉めいた返答は、心理的安全性が重視されていない警告である。
(5)社員の皆さんがこの会社に留まっているのはなぜですか。
この質問によって、その会社で働くことの全体像を理解できる。たとえば「チームワークとコラボレーションを尊重し、重視しているから」という回答なら、多角的な視点に価値を見出し、心理的に安全で帰属意識の高い環境をつくり上げていることを示す指標だ。
心理的安全性の高い組織の特徴を理解し、採用チームから「赤信号」の兆候を感じ取ること。そして、面接の際に企業の価値観を浮き彫りにする質問を知っておくこと。それができれば、自分にぴったり合った企業文化を持つ組織を見つけられるだろう。
"How to Tell If a Prospective Employer Values Psychological Safety," HBR.org, September 01, 2022.