企業は人間が所有すべきもので「市場原則」がなければ不振に陥るという主張がある。それに対して、財団所有の企業は投資家の所有する企業と同等の(場合によっては優れた)業績を収めている。

 デンマークのコーポレートガバナンスに関する研究者たちは、この所有構造がもたらす恩恵を立証してきた。財団所有の企業のほうが、従来型の所有形態の企業よりも安定した成長を遂げ、危機の時に変動が少なく、R&Dにたっぷり投資し、寿命が長い。

 2つ目のインサイトは、慈善活動に関するものだ。上場企業にとって、企業の社会貢献活動は「あればよいもの」として、利益の最大化より優先度の劣るものとされることが多い。しばしば、この2つは衝突する。社会や公益のための事業を行っていることを示す国際的な民間認証であるBコープを取得した数千社のうち、米国で上場できたのは4社しかない。しかもこのうちの1社は、すぐにBコープの認証を返上して、利益重視に舵を切った。

「株主財団モデル」は、このトレードオフを現実的な方法で克服する。株主は慈善財団であるため、株主利益を最大化することは、潜在的な寄付を最大化することでもある。多くの財団所有企業の規模と収益を考えると、株主財団の慈善活動の予算は相当なものだろう。

 3つ目のインサイトは、レガシー(遺産)に関するものだ。自らの経済的および社会的ミッションを長期にわたり維持したいオーナーにとって、これは最高の選択肢だ。

 会社を売却したり、上場させたりした際、創業者のビジョンが形を変えずに維持されることはめったにない。家族が承継すれば、次の世代が経営を誤るおそれがある。また、一部の国では相続税が高いため、時間が経つと所有権が希薄化するリスクもある。その結果、三代目まで非上場企業として生き残るファミリー企業は10%しかない。

 財団をつくれば、創業者の価値観を永遠に守る受け皿となり、この問題を回避することができる。たとえその過程で、子どもたちが相続財産の大部分(すべてではないが)を手放すことになったとしても、だ。

 今回の調査では、パタゴニアが将来直面することになる、ガバナンス上の重要な検討事項も明らかになった。

 まず、理事会の構成だ。長期的に意思決定を支配する者が現れないようにするためには、企業と慈善団体と家族代表のバランスをどのようにとればよいのか。第2の問題は、利益配分をめぐる決定だ。利益は配当として支払われ、慈善活動の元手とされるべきか、それとも会社に再投資されるべきか。第3の問題は、慈善活動と企業活動を統合するかどうかだ。たとえば、ノボノルディスク財団は、デンマークの大学の基礎科学研究に資金を提供し、それによって、ノボノルディスクに恩恵をもたらす可能性がある研究(と研究者)を育成している。パタゴニアは利己的に見えないようにしつつ、同じような道をたどることができるのか。

 シュイナードや家族(財団と会社の両方の意思決定に関わることになる)が、このような難題にくじけることはないだろう。バランスをうまくとっている財団所有企業は、多くの面で競合企業を凌駕している。

 たとえば、ロバート・ボッシュ・グループは、ロバート・ボッシュ財団が94%、創業者一族が5%所有している。一方、その主な競合企業であるシーメンス・グループは、ブラックロックなどの機関投資家が65%を所有し、個人投資家が23%、シーメンス家が6%を所有している。ボッシュとシーメンスは、どちらもドイツを代表するコングロマリットで、複数の国で競合関係にあり、業績も似ている(売上高は約800億ユーロで、純利益50億ユーロ)。

 だが、ボッシュ財団は株主として、毎年約1億ユーロを慈善活動に寄付している。伝統的な企業財団であるシーメンス財団の年間寄付額の約10倍だ。また、この構造により、経済情勢が混乱している時も、ボッシュには安定とレジリエンスがもたらされている。世界金融危機に伴う大不況の時も、ボッシュは大規模な人員削減を回避し、その後10年にわたり売上高を伸ばし、黒字を維持した。

 株主財団を採用する米国企業が増えているが、その形は、欧州諸国とは大きく異なる米国の法的、文化的、政治的環境によって形成されるのは間違いないだろう。このような財団は、多くの国で成功とレジリエンスとレスポンシビリティを示してきた。

 市場の激しい変動や、格差の拡大、そして生態系の危機といった不確実な時代にあって、シュイナードの行動をきっかけに、財団所有の可能性を模索する企業オーナーが増えることを期待したい。


"What Happens When a Company (Like Patagonia) Transfers Ownership to a Nonprofit?" HBR.org, October 10, 2022.