デジタルノマド・ビザは、国や地域社会に多くの利益をもたらす。

 第1に、世界各国の移民政策の問題やビザ発給の遅れを、一時的に修正する役割を果たす。現在、多くの知識労働者が、移民政策の行き詰まりやビザ発給手続きの長期化により、米国をはじめとしたさまざまな国で働くことができない状態にある。

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起きる前から、知識労働者はビザ発給までの長い待ち時間、発給拒否率の上昇、そして大きな不安に直面していた。パンデミックはこれらの問題をさらに悪化させ、コロナ感染が拡大しているホットスポットからの渡航制限、外国での大使館閉鎖、あらゆる種類のビザの発給手続きの遅れという課題が加わった。

 デジタルノマド・ビザによって、短期間で世界各国にアクセスすることが可能になった。リモートワーカーは通常6~12カ月間、現地に滞在できる。デジタルノマドの地理的移動によって、ビジネストラベルの期間が短期から中期に変わり、航空業界に待望の需要喚起がもたらされる可能性がある。

 第2に、これは特に重要なことだが、デジタルノマドが地域間の知識やリソースの流れを促進し、彼ら自身や所属組織、受け入れ国に利益をもたらす可能性がある。

 筆者は長年にわたり、地理的移動とイノベーションについて研究を重ねてきた。その結果、短期間のビジネストラベルを通じて、労働者が情報やリソースにアクセスすることで、新たなアイデアやプロジェクトを創出し、モバイルワーカーと組織の両方に利益をもたらすことが明らかになっている。それは、地理的に離れた同僚と短期間、同じ場所で一緒に働く「コロケーション」であっても変わらない。

 筆者が、ボストンカレッジのキャロル・スクール・オブ・マネジメント助教授で、当時、ハーバード・ビジネス・スクールの博士課程の学生だったド・ユン・キムと行った研究でも、スキルを持つ移住者が出身国の文化的背景の中から、受け入れ先のコミュニティにユニークな知識をもたらすことが明らかになっている。また、現地の発明家は、移民がもたらした知識にみずからの既存の知識を組み合わせる「知識の再結合」を行っていることもわかった。

 同研究に続いて、米ブルッキングス研究所シニアフェローのダニー・バハール、パリ・スクール・オブ・エコノミクス教授のヒレル・ラポポートと行った研究では、移民の発明家は母国から移民先に知識を「輸入」し、それが特許取得につながるだけでなく、母国が得意とする技術分野で実際に特許数が増加することが示された。その結果、受け入れ先の国では、移民が発明者として、先例のない規模で新技術の特許を取得する可能性が高くなる。

 最後に、デジタルノマドは起業家精神を育み、世界各地にテクノロジークラスターを形成する上で、重要な役割を果たすかもしれない。数カ月であっても、外国人起業家が共有スペースに集まれば、新たな人脈が構築されて、新規事業が生まれる可能性がある。筆者が協力した政府出資のインキュベータープログラム「スタートアップ・チリ」でも、2012年の設立以来、280社を超えるスタートアップをチリに招いている。

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 本稿で論じてきたように、デジタルノマドやリモートワーカーが、あらゆる経済に恩恵をもたらす存在であることは明らかだ。彼らは受け入れ国でお金を使い、コラボレーションを促進し、イノベーションを加速する。

 しかし、米国はデジタルノマドに関するビザプログラムを発表していない。世界中の国々がリモートで働く優秀な人材を獲得するために競い合っている中、いまこそ米国は、その流れに乗るべきだ。さもなければ、取り残されてしまうおそれがある。


"How 'Digital Nomad' Visas Can Boost Local Economies," HBR.org, May 27, 2022.