
オフィスや自宅に限定されず、自分の好きな場所で働くことができる柔軟な勤務形態「ワーク・フロム・エニウェア」(WFA)が普及したことで、「デジタルノマド」と呼ばれる国際的なリモートワーカーが増えている。リモートワークを活用すれば、観光地や南国に滞在することもできるため、仕事と観光を兼ねて「ワーケーション」をする人もいる。この新たな潮流の中で、世界各国でデジタルノマドを対象としたビザプログラムが提供されるようになった。現地の雇用を奪うことなく、地域経済に時間とお金を投資するデジタルノマドは、受け入れ国にとって貴重な存在だからだ。本稿では、デジタルノマド・ビザプログラムの例を挙げながら、彼らを受け入れる国にどのような効果がもたらされるかを論じる。
労働者が自分の好きな場所に住むことができる柔軟な勤務形態「ワーク・フロム・エニウェア」(WFA)が普及し、「デジタルノマド」と呼ばれる国際的なリモートワーカーを獲得するために、世界各国が競い合っている。たとえば、ポルトガルは滞在期間中にリモートで仕事をしていることを証明できる労働者に対し、2年更新の滞在ビザ(査証)を提供している。
ほかにも、オーストラリア、チェコ共和国、アラブ首長国連邦(UAE)、エストニア、ドイツ、タイ、インドネシア、イタリア、スペイン、ブラジルをはじめ、多くの国がデジタルノマド・ビザを提供している(詳細は下記の図表を参照)。
これらのビザに必要なのは一般に、収入とリモート雇用の証明、旅行保険、そして出国の意思だ。要するに、デジタルノマドは現地の雇用を奪うことなく、自身の時間とお金を地域経済に投資し、現地の知識労働者との架け橋となる。リモートワーカーと地域社会の双方にとって、ウィン・ウィンとなるのだ。
自宅の仕事部屋、別の州、あるいは地球の裏側など、WFAという選択肢を従業員に提供する企業がますます増えている。ザピアー、ギットラボ、ドイストのように、オフィスをまったく持たず、完全リモート型を採用している企業もある。
ツイッターやショッピファイなどは、物理的なオフィスは維持しつつ、「リモートファースト」の考え方を取り入れている。ハイブリッド型を模索する企業もあり、特定の職務にリモートワークを許可したり、たとえばグーグルが2021年に発表したように1年のうち一定期間、WFAを選択できるようにしたりしている。
リモートワークのプロフェッショナルが増えていることで、WFAの「エニウェア」(どこでも)の範囲が拡大している。デジタルノマドと呼ばれる人々は、リモートワークを活用しながら、観光地や南国に数カ月間滞在することができる。仕事と観光を兼ねて、数カ月「ワーケーション」をする人もいる。
新型コロナウイルス感染症のパンデミック下で、多くの国、特に自国にとって観光セクターが重要な柱であり、世界的な旅行者数の減少に見舞われた国々が、デジタルノマドを対象とした特別なビザを提供し始めた。
デジタルノマドは現在、南国(コスタリカ、メキシコ、エクアドル)、島国(セントルシア、バルバドス、セーシェル共和国)、避暑地(エストニア、アイスランド、ノルウェー)など、多岐にわたる選択肢の中から、行き先を決めることができる。
また、欧州連合(EU)の一部の加盟国や東南アジアの多くの国々は、既存の短期就労ビザの対象を拡大し、リモートワーカーにビザを発給している。これらのビザは一般に、約1000ドルの費用負担で取得することができ、6カ月から2年の滞在の間、現地の所得税が免除される。また、収入や雇用に関する条件もあり、ビザ保持者が現地の雇用を奪うことなく、自分で自分の生活を支えることができる仕組みになっている。