「従来のマーケティング手法が通用しなくなった」と悩んでいる企業は少なくないだろう。その背景には、顧客の接触媒体が大きく変化したという点が挙げられる。つまり、ネットが社会に不可欠な存在になったことに加え、モバイル端末やソーシャル・メディアの隆盛に伴い、顧客の購買行動に占める“デジタル”のウェートが非常に大きくなったのである。それは裏を返せば、顧客一人ひとりの行動をデータで可視化し、マスではなく個別にアプローチできるようになったとも捉えられる。この顧客を取り巻く環境の変化を踏まえ、「マーケティングにおいてイノベーションが起きている今こそ、デジタル・マーケティングに踏み出すべき時です」と唱えるのは、アドビ システムズ(以下「アドビ」)代表取締役社長のクレイグ・ティーゲル氏だ。PDFの作成・編集・管理ソフト〈Acrobat〉をはじめ、さまざまなクリエーティブ・ソフトのベンダーとして知られる同社は、ここ数年デジタル・マーケティングへ事業領域を拡大し、存在を高めている。企業がとるべき方策と合わせ、同社の事業戦略を聞いた。

次世代マーケティングに
必要なソリューションを提供していく

アドビ システムズ
代表取締役社長
アドビ ワールドワイド フィールドオペレーション担当 副社長
兼日本およびアジアパシフィック地域代表
クレイグ・ティーゲル氏

Craig Tegel
シドニー工科大学でマーケティングの準学士号を取得。アドビ システムズ本社のオーストラリア・ニュージーランド地域担当ビジネス ディベロップメント マネージャー、アジア太平洋地域担当マネージング ディレクターなどを経て2009年1月より現職。

──御社はここ数年、デジタル・マーケティング分野に注力し、業界での存在感も非常に大きくなってきています。その背景や経緯についてお聞かせください。

 デジタル化の波はあらゆる領域で急速に進んでいます。当社はもともと、出版物の電子化という分野から事業をスタートさせたわけですが、デジタル化の進展、企業のニーズの変化に合わせて、デジタル・メディアからデジタル・マーケティングへ積極的に事業展開をしてまいりました。

 たとえば広告制作物を例にとれば、以前は一度制作したものを、顧客の反応によって、タイムリーにカイゼンしていくことは容易ではありませんでした。しかしデジタルの時代はそうではありません。一つひとつの制作物に対する顧客の反応や効果などを測定・分析し、より個人に最適化されたメッセージを届けるために試行錯誤を繰り返さなければいけません。「作って終わり」ではなく、「作ってからが始まり」なのです。多くの企業が認識している通り、成熟市場においては、こうした顧客一人ひとりへの適切なコミュニケーションが成長の鍵を握ります。そこで、マーケティング・コミュニケーションの現場に寄り添って事業を展開してきたわれわれの本来の強みを生かしながら、事業ポートフォリオを拡充してきたのです。

 具体的には、まず2009年に〈Omniture〉を買収し、Web解析分野を強化しました。Webサイトを訪れた顧客が実際にどのような行動をとったのかを、より厳密に分析できるようになったのです。続いて10年にはWebコンテンツ管理の〈Day Software〉を買収しました。こちらは、デジタル・マーケティングの基盤ともいえるかもしれませんが、組織全体にわたってデジタル・コンテンツをオンラインで作成、管理、整理、配信できるというものです。さらに11年にオーディエンス・データ管理プラットフォームを提供する〈Demdex〉、12年には広告最適化のソリューションを持つ〈Efficient Frontier〉を傘下に入れました。

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