経営活動を「広義のマーケティング」として捉える

 かつて日本企業は市場ニーズを製品イノベーションに結実し、ものづくりの力で世界市場を牽引した。だがそのポジションは、「電機敗北」が象徴するように、新たなプレーヤーに取って代わられ、苦しい状況が続いている。

恩藏直人(おんぞう・なおと)  
早稲田大学 商学学術院 教授

 P.F.ドラッカーは、「経営とはマーケティングとイノベーションである」と喝破した。イノベーションは企業にとって無視できない一翼ではあるが、各社の技術水準の高度化とともに、イノベーションだけでライバルを打ち破ることは難しくなっている。そこで、これまでのやり方を見直し新たな成功パターンを導き出すため、マーケティングの力が求められている。

 およそ企業活動は、ファイナンス、ヒューマンリソース、生産を除いた大部分を広義のマーケティングとして捉えることができる。顧客の声に耳を傾け、顧客起点で一連の企業活動をデザインするのは、マーケティング担当役員、当該部門だけで対応できる課題ではない。つまり、顧客第一主義は全社的な戦略課題であるわけだが、これを文字通り認識し実行する経営者がどれほどいるだろうか。

マーケティング黎明期から
「3.0の時代」への変化を捉える

「近代マーケティングの父」フィリップ・コトラーは、次世代のマーケティングコンセプトを「マーケティング3.0」として提唱している。マネジメントを次なるステージへ高度化するためには、マーケティングを戦略の土台に据えることから始めるべきだろう。 

図「マーケティング1.0、2.0、3.0の比較」を下記よりPDFでご覧いただけます。

 

 産業革命以前、経済の世界では顧客を「個」として捉えていた。それは、提供する製品、サービスの規模が小さく、一人ひとりの顧客に対して個別対応をすることができる状況にあったからだ。その後、大量生産、大量消費時代を迎え、製品中心のマーケティングが主流となる。いわゆる「マーケティング1.0」の時代である。これは、マーケティング・ミックスや4Pに象徴されるもので、顧客をマスとして捉えていた。

 その後、顧客を「集団」として捉える時代へと移行するにつれ、マーケティング活動も顧客志向へと進化を遂げる。これが「マーケティング2.0」だ。セグメンテーションやターゲティングがキーワードとしてクローズアップされるようになり、同質的な嗜好を有する塊として顧客を捉え、提供製品の独自性を発揮することにより、ひたすら競争優位性を目指した。

 そして近年、ソーシャルメデイアをはじめ、めざましい発展を見せるITテクノロジー(データ分析やソーシャルメディア管理、費用対効果計測などの各種ツール)の恩恵を受け、再び顧客を「個」として捉える発想へと回帰している。マーケティング2.0の時代では、効率や効果を求めるとカスタマー・インティマシー(顧客との親密な関係)が犠牲になる傾向があったが、デジタルという武器を得たことで、企業は顧客1人ひとりと向き合えるようになり、マスのメリットを生かしつつ顧客との親密な関係を両立できるようになった。これが、コトラーの提唱する「マーケティング3.0」のステージだ。

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