新規顧客獲得に注力するあまり、既存顧客への対応が不十分という企業は少なくない。特にBtoB企業においては、戦略性の高い顧客への対応が優先され、それ以外の顧客に対してはほとんど労力をかけていないケースが目立つ。BtoBマーケティングの課題と解決へのアプローチについて、一橋大学大学院の名和高司教授とサービスソース・インターナショナル・ジャパンの武藤健一郎社長が語り合った。

企業業績を大きく左右する
「低戦略性・高収益性」顧客

武藤 いま、セールスやマーケティングを見直そうとするBtoB企業が目立ちます。クラウドやビッグデータへの関心の高まりもあって、多くの経営者が「ウチでも何かできないか」と考えています。

名和 ビッグデータ活用の成功事例も増えているようですが、私自身はその前にやるべきことがあると思っています。足元に宝の山が眠っている可能性があるのに、多くの企業は気づいていません。

武藤 足元の宝というと。

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二つの要素から見た顧客の分類

名和 戦略的な重要度をタテ軸、収益性をヨコ軸とした四象限で考えてみましょう(図表)。ある商品やサービスを市場に投入した時、最初のユーザーは戦略的なパートナーです。ただ、収益はあまり期待できません。ここで成功すると、右側の象限を狙います。戦略性と収益性の両方が高い、いわばVIP顧客です。ここまでは当たり前ですが、問題はその次。戦略性は低くても収益性の高い顧客に対して、いかにアプローチするか。私が宝の山と言うのはこのエリアです。

武藤 この象限の顧客を見極める必要がありますね。戦略性と収益性ともに低い左下には、アプローチすべきではありません。とすると、戦略性が低いエリアについて、収益を生むかどうかという線引きが大事ということになります。

名和 その通りです。VIPと同じように手間をかければ儲からないが、顧客対応のやり方を標準化・効率化すれば十分利益につながるという顧客も多い。多くの日本企業は上半分で満足してしまい、右下の豊饒なエリアを見過ごしているのです。これが、企業の収益構造そのものに悪影響を与えています。

武藤 BtoB企業は上半分の顧客には営業担当者を配置して、手厚いサポートを行っています。しかし、それができるのは顧客全体の二割程度でしょう。