「まだら模様」を呈する日本企業のグローバル化の現在像のほとんどが、少々乱暴な言い方をすれば、単なる「結果」である。このままでは、近い将来のまだら模様(成り行きの将来像)が自社のグローバル化として望ましい姿(あるべき将来像)となるかどうかは心もとない。そこで今回は、(成り行きではない)あるべき将来像を描くためのアプローチを紹介しよう。
「成り行き」から「あるべき」将来像へ
前回取り上げた「まだら模様のグローバル化の7タイプ4ルート」は、各企業が主に事業展開の視点から海外への自前の進出や外国企業の買収を重ねていくと、結果的に組織の姿が変容しまだら模様になっている、という話であった。つまり、まだら模様のグローバル組織をつくろうという意図からまだら模様になったのではない。その姿は成り行き、言うなれば意図せぬ結果としてまだら模様が出現しているのである。
そこで問題となるのは、現状のまだら模様(現在像)や、近い将来のまだら模様(成り行きの将来像)が、果たして自社のグローバル化として望ましい姿(あるべき将来像)なのか、である。それに答えるには、そもそも自社のグローバル化における「(成り行きではない)あるべき将来像」を描くことが前提となる。今回はそういう「あるべき将来像」を描くためのアプローチを紹介しよう。
初回で述べたように、日本企業の実態を全世界的な視点から俯瞰すると、日本企業のグローバル化において、ほとんどのケースで3つの要素を組み合わせることが必要になっている。3つの要素とは、「世界標準的な要素」と、「進出先各国事情への適応」と、「日本企業らしい自社の強味の発揮」である。あるべき将来像を描くポイントは、これら3つの要素の組み合わせ方にある。
「あるべき将来像」が兼ね備えるべき3要素
第1の要素の「世界標準的な要素」とは、全社組織の経営方式において、世界標準機能を装備することを指す。例えば本社機能(財務、人事、IT、等)を、先進的な外資系と同様の世界標準機能とすることである。ビジネス上のグローバルな戦いで、世界標準化すべきところを確実に標準化することは勝つための必要条件であるといっても過言ではない。
その理由は、例えば世界標準化によって、ヒト・モノ・カネ・情報などリソースの調達・活用・成果測定を、ワールドワイドに効率的に統一感をもって行うことが初めて可能となるからである。トップクラスの欧米グローバル企業が、事業・組織・制度など広範な範囲で進めている方式である。さらにそれらの企業では経営幹部を中心に世界水準の人材をそろえている(ネスレ、ユニリーバ、ロイヤルダッチシェル、GE、IBM、 P&G等)。
第2の要素は、進出先各国・地域の独自の事情への適応、すなわちローカル化である。国や地域ごとに、歴史も文化も言語も政治も経済も法律も異なるという意味で、世界の経営環境は多様であり、購買者や供給者や従業員や政治家・官僚、等の形で企業と深く関わる人々の考え方や価値観にはローカルな特徴が色濃く現われる。そうした多様なローカルの事情にうまく適応したり、ローカルな状況をうまく活用したりするローカル化は必須である。例えば商品開発・営業機能は進出先の事情に合わせるローカル化がとりわけ重要である。
実際、グローバル企業の中にも各ローカルの特徴をうまくとらえて、それに適応し、それを生かした経営を行っているところがある。例えば、ネスレをはじめとするスイス企業や、ユニリーバやロイヤルダッチシェルといったオランダ・英国系企業等、欧州諸国発のグローバル企業がその例である。近年は、LGやサムスンなどの韓国企業や、アフリカ等で活躍するインド企業や中国企業の中にもローカル化で一定の成果をあげている事例が見いだされる。もちろん日本企業の中にも味の素のようにローカル化で成功している企業がある。
第3の要素は、その企業が持つ独自の強味、とりわけワールドワイドで通用するような卓越した強味の発揮である。例えば、日本企業の中でグローバル化の先行する製造業には、開発・製造において世界で通用する強味を持つ企業も少なくない。そのような強味は往々にして、その企業の発祥地(本国)の特徴を背景や基盤としており、日本企業であれば、長期的に雇用される人々の間で練り上げられる技術やその応用、すり合わせ的な協働等、日本的な特徴と密接に関わる場合が多いだろう。
これらの3要素を最適な按配で組み合わせることで、グローバル化における組織のあるべき将来像を描くことができる。では、3要素の最適な組合せとはどういう組み合わせだろうか?