グローバリゼーション3.0の時代を生き抜くために、どう思考し、行動すればいいのか。そのヒントとなるのがパンカジュ・ゲマワットの競争戦略だ。「差異を理解して利用する」というそのグローバル戦略は、グローバリゼーション3.0時代にどう進化しているのだろう。
トリプルA戦略の3.0
マイケル・ポーターが持っていたハーバード・ビジネス・スクールの最年少教授の記録を更新し、現在はスペインのIESEビジネス・スクールで教鞭をとるパンカジュ・ゲマワットは、戦略論における私の師匠でもあります。日本では『コークの味は国ごとにちがうべきか』(文藝春秋)という一風変わった、しかし見事にその内容を表しているタイトルの著書ですっかり有名になりました。
あの本に書かれていることを一言でまとめれば、「世界はフラットではなく、その差異を理解して利用することが競争優位をもたらす」ということになるでしょう。それが、ゲマワットのグローバル戦略「トリプルA」です。
●Adaptation(適応):商品や販売などのバリューチェーンをローカライズすることにより、現地のニーズや環境に合った事業を展開し、売上高と市場シェアを増やす戦略
●Aggregation(集約):製品やサービスを標準化し、開発と生産のプロセスを統合することにより、規模の経済を追求する戦略
●Arbitrage(裁定):国や地域ごとの差異を理解して活用する戦略
グローバル化の進展により、トリプルAも変遷します。
最後のA、アービトラージは、グローバリゼーションの初期段階、1.0においては単純な鞘抜きです。たとえば、生産コストの低いメキシコでつくったものを欧州で販売して、コールセンターはインドに置くといった具合で、市場間の主にコストの差を利用します。
次の2.0の段階に進むと、国境を超えて経営資源を獲得し、国や地域ごとの知恵や強みを共有しながら、それぞれの特徴を生かした製品づくりやビジネスを行います。この段階における差異はコストよりもむしろ、専門性や優位性が主です。
ここまでが足し算の話だとすれば、3.0は掛け算の世界になります。自社のルーツや独自性を把握したうえで、地域ごとの文化、政治、地理、経済の差異を認識し、双方向に知恵を出し合いながら異質のものを融合する。これにより何倍もの価値を生み出すのが、鞘抜きや分業を超えて3.0に進化したアービトラージです。
