2.双方の組織で対応する諸機能の間でケイパビリティの優劣を比較する
選択された機能、たとえばマーケティング機能同士や財務機能同士で優劣を比較する。問題はケイパビリティの優劣を比較する基準である。ここでは、ダイナミックケイパビリティ論における進化的適合性という考え方と、経営戦略論における3Cの考え方を踏まえ、「性能」「顧客」「競合」という3つの基準でケイパビリティの優劣の比較を行う(*3)。
(a)「性能」の比較
直接部門における事業の諸機能であれば単位コストあたりのバリューで、間接部門などの本社機能であれば直接部門へ提供できる単位コストあたりのサービスとその品質で比較する。CXOの経営機能であれば、経験・実績を比較する。この機能はある程度、属人的にならざるをえないが、たとえば、新興国で市場開拓組織の責任者を務めた経験のある経営人材が青色側のみにいればそちらの性能が勝ると推定する。
(b)「顧客」の比較
顧客のニーズの充足度をみる。ただし、実際には、顧客が日系顧客か非日系顧客かを勘案し、日系顧客に対しては、他の条件が同じであれば緑の機能のほうが選好されることになるだろう。「社内」顧客の場合も同様で、顧客が緑であれば、緑のほうが選好される蓋然性が高まる。
(c)「競合」の比較
競合と比べて、その機能が差別化要因(競争上の優位性)になりえるかどうかが重要な基準となる。ある機能が緑で、競争上の優位のコアになっている場合は、仮にその他の機能を青にする場合でも、その機能のみは緑に保つこともある。
3.ケイパビリティの優劣比較で優勢な色を採用し、一貫性(coherence)を勘案して整える
原則として、ケイパビリティを比較して優勢な色を統合後の色として採用するのだが、それを決める際には、一貫性(coherence)という基準も勘案する必要がある。2の3Cにもう一つCを加えて4Cといってもいいだろう。
たとえば、比較の結果、ある事業のバリューチェーンを構成するほとんどの機能において青が優勢だが、一機能だけ緑が優勢という場合には、一貫性の観点から青色に統一することもありえるだろう。ただし、その緑が競争上の優位性のコアたりえる場合は緑のままとする可能性も残り、見極めが重要である。つまり、一貫性を勘案する際には、2)でとりあげた性能・顧客・競合という三つの基準とのバランスや、三つの基準間のバランスを俎上にのせて、組織問題を考えるうえで必須ともいえる「バランスのとれた判断」を形成する機会にするとよい。
4.統合された組織の配色に対応する設計図をデザインする
緑の組織の設計図と、青の組織の設計図は異なっているが、統合する以上、組織の設計図は原則として一つになる。
統合後の組織が青一色であれば、話は簡単で、多くの場合、青の側の設計図がそのまま統一設計図となる。
しかし、実際には、開発機能は緑、その他の機能は青といったことがありえる。そういう場合、開発機能以外の設計図は全面的に青でよいが、開発機能に対応する設計図については、設計図のデザインで若干の工夫が必要だ。全面的に緑のままにするか、あるいは他の機能との一貫性を重視して、原則青にしつつも、緑の開発機能のよさの中心である、厳密な職務分割を行わず皆でカバーしあうチームワーク重視のアプローチを、行動規範や組織構造・役割・コミュニケーションの部分に残したり、そのような行動を評価・報酬に反映できるようにしたりすることを検討する。
以上、相互理解、外交的協働、構造的統合の三段階のモードで、インタアクションの深さと幅をともに増大させていくアプローチで話を進めてきた。ただし、その時々の状況や進化的適合性の観点から、深さと幅を最大限まで振り切るのが常にベストとは限らず、選択の余地がある。
なお、ここで述べたインタアクションは社内におけるインタアクションを想定しているが、その内容は社外とのインタアクションの議論へ拡張することも可能である。この点は、昨今のグローバル化において見逃せないデジタル化・ネットワーク化というテーマを論じる際にあらためて取り上げたい。
*3 ダイナミックケイパビリティの進化的適合性は、「性能(technical fitnessを意訳)」「需要」「競合」という三つの要素に照らして評価する。この3要素は、経営戦略論の古典的な枠組ともいうべき3Cの視点にほぼ対 応させることができる(性能→Corporation、 需要→Customer、競合→Competitor)。そこで3Cを補助線として、三要素の中身に少々幅を持たせたうえで、三つの基準としている。