国際ビジネスに携わるエグゼクティブなビジネスパーソンであれば、世の中は確実に英語を軸に動いていることを認識しているはず。特にビジネスの現場では、英語を母語としないノンネイティブとのコンタクトも多く、英語が世界共通語であることを実感しているだろう。その中でも、企業イメージを背負うエグゼクティブのための英語とは、どうあるべきなのだろうか?

「逆説的ですが、私は、いわゆる“ビジネス英語”というものは特殊なものではないと思っています。ビジネス英語というと、顧客に対するプレゼンテーションや交渉の場面での専門的な英語をイメージしますが、実際のビジネスで、プレゼンや交渉をする時間はごく一部。それよりも、社内のコンセンサスを得るための対話や同僚たちと交わす日常的な会話の方が多い。もちろん専門用語や最低限のフレーズを覚える必要はありますが、ビジネス英語とは基本的に、一般的な英語の延長線上にあると考えています」

 そう語るのは、豊富な海外ビジネス体験を持ち、現在NHKラジオで『入門ビジネス英語』の講師を務める、目白大学外国語学部英米語学科の柴田真一教授である。

アウトプットで使う表現を
“引き出し”に貯める

目白大学
外国語学部英米語学科教授
柴田真一

上智大学外国語学部卒業、ロンドン大学経営学修士(MBA)。みずほファイナンシャルグループ勤務を経て2012年9月より現職。銀行マンとしてロンドン15年、ドイツ5年の海外勤務を経験。2015年4月よりNHKラジオ『入門ビジネス英語』の講師を務める。著書に『金融英語入門』(東洋経済新報社)、『ダボス会議に学ぶ 世界経済がわかるリーダーの英語』(コスモピア)など多数。

 柴田教授が英語に関心を持ったのは、小学校3年生のとき。父親のニューヨーク赴任に合わせて3ヵ月ほど現地で生活、そのとき「英語ができないと話にならない」と切実に感じたという。大学ではドイツ語を専攻、英語は独学だったが、銀行に就職して赤坂支店に勤務、その地区に多い外資系企業を担当するようになって、実践で鍛えられたという。

「米国企業のベルギー人の社長と懇意になり、私が会話に出てくる英語表現をメモしているのを見て、本社のアニュアルレポートや英字の雑誌を貸してくれるようになったのです。親しくなったのは、彼の日本での住宅ローンの世話をしてあげたことがきっかけ。相手の、懐に入ることでビジネスが広がり、自分の英語力の向上にもつながったのです」

 満足な教材もなかった当時、心掛けたのは、常にアウトプットを意識しながら英語を学ぶことだった。例えば「この事件は企業にとってmaterial impactがあった」という表現に出合ったとする。materialとは通常「物質」という意味だが、この場合は「重大な・甚大な」という意味で使う。ニュースなどでもよく耳にする。そうしたアウトプットで使えそうな表現を、自分の“引き出し”に貯め、機会があれば積極的に使っていく。「運用力ある英語の習得には、結局その積み重ねが大切なのです」と柴田教授は強調する。

 ロンドン勤務時代に学んだのは、会議の場でいかに自分の意見を言うか、だった。「タイミングを見計らっていると次の話題に移ったりして、何も話せないで終わってしまう。自分の存在感もなくなり、そのうちミーティングに呼ばれなくなってしまう。これはまずいと思い、遠慮せずに他人の発言に割り込んだり、話題がフェイドアウトしそうになるとオーバーラップしたり、とにかく発言の意思表示を積極的に行った。そのうちに、自分の発言を皆が期待して待つような環境ができた。英語力も大事ですが、ビジネスの現場では周りをよく観察し、自己主張するスキルを獲得することも大事なのです」

 聞き取れなくて、pardon meを繰り返していると、相手は次第に苛々してくる。そうしたときは、相手の言ったことをオウム返しで言ってみる。間違っていれば、相手が訂正してくれる。 エグゼクティブともなると、「恥ずかしい英語は話せない」という意識が先立ってしまい、余計に話せなくなるという悪循環も起こる。これはどう克服すべきなのか?

「まずは間違いを怖れずに話すメンタリティを持つこと。そして、国際ビジネスで関心のあるテーマについて、ある程度ストーリーのある短いネタを自分で二、三用意しておくこと。海外のエグゼクティブは、相手に対するリスペクトがあるので、きちんと聞いてくれます」

 と柴田教授。とにかく何か質問されたら、一言で終わらせず、話を続ける努力をすることが肝要なのだという。昨日映画を観に行った場合、「どうだった?」と聞かれ、「It was good!」だけでは、会話はそれで終わってしまう。会話を続ける意志とパワーを持てるかどうか。その壁を乗り越えることで、ビジネスに通じる英語の運用力も出てくるのだ。