日本の保険会社は消えてしまうのか
世界のトップを争う位置にいながら走ることをやめないアクサ。同社のような危機感が、いまの日本企業にあるだろうか。
危機感は持っているかもしれない。しかしその危機感を経営戦略に反映し、行動に移すという観点において、アクサと日本の保険会社の現状認識を見ると、彼我の違いは明らかだ。
確かに日本の保険業界でも、生き残りをかけた熾烈な競争が繰り広げられている。人口減少、少子高齢化、経済成長の鈍化などで、すでに飽和状態にある国内市場の先細りが予測されるなか、新興国をはじめとする海外市場への進出やM&Aで事業基盤を強化する動きも活発化している。だがアクサをはじめとする世界でトップを走り続ける企業がもつ長期的な視野と戦略があるのかといえば、必ずしもそうではないだろう。
グローバル企業が全世界にアンテナを巡らせネットワークを築いている一方、日本の保険会社のほとんどが、国内のグループ内にシンクタンクや調査会社を備えているものの本格的なR&D機能を持っていない。将来、自社の脅威になりかねない有望なベンチャーをいち早く買収し、丸ごと取り込もうとする戦略は見受けられない。私がここで保険業界を例に引いたのは、メガトレンドの影響を真っ先に、そしてまともに受けることになる業界の一つだからだ。すでに気候変動や都市化率の上昇は損害保険金の支払額に影響を及ぼしているし、少子高齢化は生命保険の市場縮小を意味する。
そして、メガトレンドのなかでもすさまじいスピードとインパクトの大きさで保険業のあり方を根本から変えていくと考えられるのが技術革新(イノベーション)である。
たとえば医療技術やバイオテクノロジーがさらに進化して、もし仮に、人がいつどんな病気にかかって、何歳頃に死ぬかがわかるようになれば、現在の医療保険や死亡保険の設計は根本的な見直しを迫られる。自動車の自動走行やカーシェアが一般化して、住まいの分野でもシェアリングエコノミーが広がれば、賠償責任の構造自体が根本から変わることになり、現在とはまったく違う保険商品や契約形態が登場することになるだろう。
これらは遠い未来の話ではない。すでに起こりつつある変化の「少しだけ先」にあるのである。だが、こうした現実的なシナリオを日本の保険会社が真剣に考えているかといえば疑問が残る。少なくとも現在の投資行動や組織改革の動きから、差し迫った危機感はうかがえない。このまま国内の競合と不毛な競争を繰り広げていれば、世界の市場から完全に駆逐されてしまうおそれさえある。
2030年の世界から消えてなくなっているのが、どの分野のどの企業なのかはわからない。現時点で将来性を危ぶまれていない分野や企業かもしれない。2030年に向けた競争環境の変化を読み解く努力をしても危機は回避できるとは限らない。ただ言えることは、努力を怠る企業は必ず淘汰されるということだ。
これに関連して、成長の機会とヒントがどこにあるのかを探る努力を惜しんではならない。これが本連載のメッセージである。
次回以降、私が専門とする保険ビジネスを中心に詳しく解説していきたい。
参照)アクサ公式ウェブサイト