消費者が必要な情報にアクセスし、自由に情報を発信する時代。企業との情報格差にも大きな変化が見られる。そんな時代を迎えて、多くの企業が顧客との向き合い方を問い直している。賢い消費者に対して、表面だけの小細工は通用しない。ただし、闇雲に頑張るだけでは勝てない。ミッションやビジョンを明確にしたうえで、どのような戦略を構築するか。いま、経営者は切実な問いを突き付けられている。
企業姿勢そのものが問われる時代

国際企業戦略研究科 教授
阿久津聡氏
一橋大学商学部卒業、同大学院商学研究科修士課程修了。カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院にてMS(経営工学修士)とPh.D.(経営学博士)を取得。同校研究員、一橋大学商学部専任講師などを経て現職。専門はマーケティング、消費者行動論、ブランド論。『ソーシャルエコノミー』(共著、翔泳社、2012)、『ブランド戦略シナリオ』(共著、ダイヤモンド社、2002)など著書・訳書多数。
関 人々を取り巻く情報環境は激変しました。企業・消費者間の情報の非対称性は、解消に向かいつつあります。パワー・バランスの変化とも言えるでしょう。こうした中で、口コミの重要性が高まっています。信頼できる人の口コミは昔から強力なメディアでしたが、もともと質の高い口コミがソーシャル・メディアで量的な拡大を続けています。
阿久津 口コミの信頼性の背景にあるのが文脈情報です。情報を受け取る側は、発信者がどんな人か、普段どんなことを言っているのか知っています。文脈情報を把握したうえで、私たちはその情報が信頼できるかどうかを判断しているのです。そのような構造が、口コミの強さにつながっています。
関 口コミはさまざまな壁を乗り越えて伝わります。国境や業界におけるボーダレス化だけでなく、企業の内と外を隔てる境目もなくなりつつあります。企業がいくら自画自賛のメッセージを大量に発信しても、働いている人のつぶやきですぐにバレてしまう。企業にとっては、見せ方を工夫するだけの情報発信が無効化しつつあります。とすれば、「本当の姿」で勝負するほかありません。企業姿勢そのものが問われる時代です。
阿久津 同感です。ただ一方で、一人ひとりの消費者が大量の情報を取捨選択することは難しい。文脈情報を吟味せずに、「みんながそう言っているから」といった理由で情報の信頼性を評価してしまう傾向もあることを忘れてはいけません。しかし、だからといって、以前のようにマスコミが主導権を握っているわけではない。情報を発信する人、受け取る人の関係は錯綜しダイナミックに変化します。もはや誰も、これまでのようには情報の流れをコントロールできないのです。
ファンの力を攻めと守りに生かす

代表取締役社長
関 厳氏
東京大学教育学部卒業後、経営コンサルティング会社での役員経験を経てリブ・コンサルティングを設立。「“100年後の世界を良くする会社”を増やす」を理念に掲げ、国内外4拠点にて成長企業のコンサルティングを行っている。現在もトップ・コンサルタントとして幅広い業界のコンサルティング支援に携わるほか、多くの業界団体向け講演活動も行っており、年間約5000人を動員。主著に『経営戦略としての紹介営業』(あさ出版、2015)。
関 情報をコントロールできない時代、企業のマーケティング活動はどのように変わるべきでしょうか。
阿久津 私が注目している動きの一つは、ファンづくりです。企業や商品のことを深く理解するファンによって形成されたブランド・コミュニティがあれば、仮に不祥事があったとしても長い目で見て味方になってくれるでしょう。問題発生後、ネット上には不確かな情報、誇張された情報が溢れます。それに対して冷静に事実を提示する、あるいは「こういう見方もできるよ」とつぶやいてくれるファンがいれば、ダメージを最小化し早期に立ち直ることができるでしょう。
関 ネガティブ情報に対するカウンターの役割が「守り」だとすれば、ポジティブ情報の拡散は「攻め」。守りと攻めの両面で、ブランド・コミュニティの存在は大きいと思います。
阿久津 どちらの場合でも、大前提となるのは「ファクト」、つまり事実です。コミュニティに対して日ごろから事実を正確に、誠意を持って伝えているから、いざというときに助けてくれるし、口コミに積極的に参加してもらえる。また、コアなファン層は企業が間違った方向に進みそうなとき、最初に叱ってくれる人たちでもあります。
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