市村 BICは、昨今日本企業でもよく見かけるような、有望なスタートアップ企業や技術を見つけて自社に取り込むためのオープン・イノベーション特化型組織ではありません。顧客の話を一生懸命に聞き、顧客のニーズを深く理解した上で、これまでにない価値を世界へ送り出す徹底的なマーケットインが、BICのミッションです。

 マーケットのある国や地域のスタートアップ企業やVCと幅広く提携しますが、目的はあくまで顧客が抱えている問題の解決であり、新たな顧客価値の創造です。ソリューションを作るところで、コニカミノルタの既存技術を使わなければならないという縛りは一切ありません。

藤井 最初から世界5極をほぼ同時に立ち上げたそうですが、それは、イノベーションの拠点は事業があるところではなく、マーケットのあるところに設置するという考え方を徹底したためなのですね。しかも、センター長は、社外出身の人財で構成されました。

市村 ヘッドハンティング会社は使わず、さまざまなネットワークを駆使して広く募集し、私が面談しました。採用の基準は、各拠点が立地する地域特性と、その人の特性と、コニカミノルタがやりたいことの「かけ算」で考えました。

 たとえばシリコンバレーはIT革新の中心地ですが、技術はもちろんのこと、コンシューマー・マーケットにも目が利く人を選びました。欧州は、多面的にものを考えて、複雑な方程式を解ける人で、しかも、欧州ならではの社会インフラづくりや標準化などさまざまな動きに対応できる人。シンガポールは、サービスをエンド・トゥ・エンドで捉え、必要に応じて政府・規制対応のできる人を選びました。

 一方、中国は、3人を同時に同レベルに育て、競わせるというプログラムにしました。日本は一番悩みましたが、自ら会社を興して2回成功させ、その後も、ベンチャー企業向けのコンサルティングをしていた人財が見つかりました。

藤井 優秀な人財を確保した後、モチベートさせながらいかにマネジメントしていくか。どういう工夫をしていますか。

市村 センター長のMBO(Management By Objectives:目標管理)がベースです。MBOには、ミッションやビジョンをクリアに落とし込み、定性的なものと定量的なものを分けて、本人と相談しながら、戦略や、短期目標の数値を立てます。

 ミッションには、「プロセス全体を変える」「全社にインパクトを与える」「コニカミノルタグループ全体の発想プロセスをデザイン・シンキングへ持って行く」など、いろいろな要素がありますが、中でも重要なのが、「健全なプロジェクトを1拠点につき常時20動かす」という目標です。

藤井 BICの5拠点合計で常時100が回ることになりますね。

市村 プロジェクトをカウントするルールですが、企画段階のもの、顧客と握り合っている段階のもの、コマーシャル・ベースに乗ったもの、さらに、失敗して一時保留しているものまで含めます。失敗があっても構わないのです。むしろ、イノベーションは数多くの失敗の先にしか生まれません。「失敗してもいい」というカルチャーを確立してこそ、BICが回っていきます。血管と血液のように、プロジェクトが失敗も含め滞留せずに流れ続けている状態が健全と考えています。

 もう1つ、センター長たちに言っているのは、未来から逆算して立てられた、斬新な、困難だが実現すれば大きなインパクトをもたらす「ムーンショット」を持ってこいということです。

 プロジェクトは「4:4:2の構成で」というポートフォリオを彼らに示しています。本業に近いものを4割、そこからちょっと離れたものを4割、そして、BICを統括する私がまったく善し悪しを判断できない、そういうものを持ってきたら、2割分は無条件に思う存分やっていいと言ってあります。