大企業同士がつながる
コミュニティが必要

藤井 イノベーション特区のような組織を作って終わっている日本企業はたくさんありますが、BICは、特区を作って終わりではなく、既存オペレーションとイノベーションを融合する第2フェーズまで当初から計画していたというところが注目されます。

市村 まさに今、フェーズ2に突入し、既存オペレーションとイノベーションのインタラクションに取り組んでいます。

 従来から行ってきた技術者の発表会でBICも発表するなど、相互にコミュニケーションをとり始めました。また、既存オペレーションのほうから、「そのプロジェクトはうちで取り込みたい」と言ってくることもあります。

 一例ですが、ホテルで使うロボットを開発するプロジェクトに対して、既存オペレーションのエンジニアから「ホテルに設置されている複合機のメンテナンスのついでに、ロボットの定期点検も行える」という提案がありました。確かに複合機のエンジニアは、ソフト、ハード、エレキを熟知しているだけに、平均5日程度の教育をすればロボットのメンテナンスができるようになりました。ホテルにとっても、既存オペレーションにとってもBICにとっても、うれしいサービス融合です。

藤井 当然ながらジレンマもあるでしょう。既存オペレーションが生み出している利益を、イノベーションのほうへ注がなければならないのですから。「こちらは販管費を切り詰めながらぎりぎりの汗を流しているのに、そっちはずいぶん楽しそうじゃないか」と、せめぎあいも生じるのではありませんか。

市村 そこで起きてくるのが、イノベーションを起こす責任者は誰かという議論です。イノベーションというのは、年数回アイデアコンテストや新規事業イベントをやってもだめなのです。会社としてやり続け、組織化、プロセス化、制度化を行って、全社に対してインパクトあるものにしていかなければなりません。これはトップマネジメントの仕事です。

藤井 そして山名社長は、イノベーションは自分の仕事だという意識で一貫しているわけですね。

市村 また最近感じているのは、日本の大企業同士のコミュニティがほしいということです。

 スタートアップの会社と組むときには、その人たちが持っているコミュニティまですべて入り込みます。ところが、彼らのコミュニティに大企業1社で入り込んでも、スタートアップ企業側にとっては何もメリットがありません。もしも「飛び込むとそこには大企業のコミュニティがあって、これまでできなかったことができる」ということになれば、スタートアップの人たちともっとおもしろいコミュニティ形成ができるでしょう。

 日本の大企業は自前主義が強くて、スタートアップの技術をすぐに自社へ取り込もうとします。今はむしろ、大企業同士でももっとオープンな議論を重ねられる場、ともにスピード感を出すためのコミュニティが必要だと感じています。

藤井 イノベーションを起こすのにコミュニティの存在はとても重要です。これからのIoT時代はシステム化、プラットフォーム化の時代ですから、これまでの「共同研究」のレベルを超えて、異業種も含めた大企業同士のオープンなコミュニティづくりが不可欠になってくるでしょう。本日はありがとうございました。