PwC Strategy&は、書籍『なぜ良い戦略が利益に結びつかないのか』(ダイヤモンド社)の出版を記念して、次世代リーダーを対象にセミナーを開催した。書籍のタイトルにもなったクエスチョンに対する答えは、ひと言でいうと「戦略と実行が結びついていないから」である。戦略をきちんと実行するために、企業のリーダーは何をすべきか、講演とパネルディスカッションを通じて、そのヒントが提示された。

『なぜ良い戦略が利益に結びつかないのか』の出版を記念したセミナーでは、次世代リーダーたちが熱心に耳を傾けた

独自性を貫き、将来像を自ら作り出すべき

 『なぜ良い戦略が利益に結びつかないのか』の執筆を担当したのは、PwCの戦略コンサルティングを担うStrategy&のメンバーである。アップルやスターバックス、イケア、アマゾンなど世界のリーディングカンパニー14社を徹底的に調査し、その14社に共通する勝ちパターンを抽出したのが同書である。同書の出版を記念したセミナーで最初に登壇したのは、製薬会社のコンシューマーヘルス部門グローバルプレジデントを経て、現在、Strategy&のマネージングディレクターを務めるマーク・ロビンソン氏。書籍のベースとなった4400人以上に及ぶ上級エグゼクティブへの調査結果を踏まえ、多くの企業が戦略と実行のギャップに苦しんでいる現状を指摘。同書の調査研究を通じて明らかになった、「高収益企業になるための5つの行動様式」を紹介した。

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Strategy&
マネージングディレクター
マーク・ロビンソン氏

 その1つ目は、「自社の独自性を貫く」こと。戦略と実行のギャップがない企業には、自社のアイデンティティと得意分野についての明確な理解があり、その分野に業務範囲を集中させているという。「戦略と実行を結びつけるものが、その企業特有の仕事の仕方、すなわちケイパビリティであり、本当の勝ち組企業は、自社を差別化する少数のケイパビリティを経営の中心に置き、それらを巧みに融合させています」とロビンソン氏。逆に、M&Aなどで非関連の多角化を進めすぎた企業は、自社のアイデンティティがぼやけてしまう。

 2つ目は、「戦略を日常業務に落とし込む」。この行動では、自社の最も特徴あるケイパビリティを定義するような青写真を作成。ケイパビリティ体系を構築し、それらを改良したうえで全社レベルに拡大するという3つのステップが重要になる。ここで他社や他業界のベンチマーキングに没頭しすぎてしまいがちなのが落とし穴である。それでは他社の寄せ集めになってしまい、自社の特徴あるケイパビリティを見失ってしまう。

 3つ目は、「自社の組織文化を活用する」。強力なコヒーレンス(一貫性)を有する企業は、企業文化を最大の資産だと考え、その企業の際立った強みをさらに伸ばしているという。それゆえに、事業をグローバルに展開しても、強みが失われずにすむのである。

 4つ目は、「成長力を捻出するためにコストを削減する」。戦略と実行のギャップを埋めている企業は、自社にとって最も重要な分野には競合企業より大きな支出を行い、それ以外の支出をできるだけ少なくする。一律的なコストカットを止め、戦略的なコスト配分を行い、成長分野へ投資すべきだという。

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ディレクター
瓜生田義貴氏

 そして5つ目が、「将来像を自ら作り出す」ことだ。環境変化に迅速に対応するというと聞こえはよいが、実は他社の後追いに他ならない。むしろ、自社が最も得意とする分野にフォーカスし、自社が有利になるような事業モデルをいち早く構築することで、さらに高い実績を達成することが可能になる。

 「戦略面、実行面の両方で卓越しているリーダーは全体のわずか8%しかいません。勝ち組企業では、実行面においてもリーダーが深く関わっています。そのために、ぜひ5つの行動様式を身につけていただきたい」とロビンソン氏はメッセージを送った。

 続いて、Strategy&のディレクター、瓜生田義貴氏が、「5つの行動様式」が日本企業に示唆するポイントを説明。なかでも、5つ目の「将来像を自ら作り出す」について強調した。

 「スーパーコンペティターと呼ばれる勝ち組企業が自社に有利になるように業界構造を変えている一方で、日本企業は横並び意識が強く、同質的な競争に終始しています。同業他社と比べた自社のユニークな強みが何なのかを再認識し、その強みを活かせるように仕掛けていくことが望まれます。IoT(モノのインターネット)などのデジタル技術が進展するなかで、イノベーションを起こし、業界の競争構造を変えていくことはますます重要になるでしょう」と締めくくった。