日本を代表するCFO(Chief Financial Officer)が一堂に集うイベント、「CFO VISION 2017」(デロイト トーマツ グループ主催)が8月30日、帝国ホテル東京で開催された。企業の持続的成長を議論する場として、122社・185人が参加した。5回目となる今年のテーマは「CFO Agenda in a Digital World」。デジタル技術の進展が企業経営に大きな影響を与えるなかで、CFOが果たすべき役割について意見を交わした。

デロイト トーマツ グループ
CEO 小川陽一郎氏

 「これまでと違う観点でテーマを設定した」と切り出したのは、開会の挨拶に立ったデロイト トーマツ グループCEOの小川陽一郎氏。5回目となる「CFO VISIONカンファレンス」のテーマは「CFO Agenda in a Digital World」。革新的な技術の進展により、企業を取り巻く環境が大きく変化するなか、経営者にはスピーディかつ高度な判断が求められている。「企業が存続、発展していくには、イノベーションが不可欠。それによってビジネスの効率化とともに、高度化を図ることが必須」と小川氏は続けた。

 日本企業はデジタル化の波に乗り遅れず、この分野でいかに世界をリードしていくかが大きな課題であり、変革を続けていくためには、CFOの役割がますます重要になる。「CFOはCEOのパートナーとして経営課題を共有し、財務管理、経営管理、リスクマネジメントなどに対する専門的知識を武器に、局面を打開していただきたい」とエールを送った。

破壊的イノベーションは
異業種から生まれる

株式会社小松製作所
取締役会長 野路國夫氏

 基調講演で最初に登壇したのは、小松製作所取締役会長の野路國夫氏。「コマツのイノベーション戦略」と題し、同社の構造改革と「IoT社会」に向けた戦略、オープンイノベーション活動などについて紹介した。

 コマツの2016年度連結売上高は1兆8000億円、営業利益は1740億円。従業員の7割以上が外国人で、国内売上高は2割程度となっている。「建設機械業界は景気の先行指標といわれ、市場環境の変動が激しい。07年度のピーク時には、新興国が売上げの7割を占めたが、直近2~3年はやや失速している。ただし、今後10年は新興国の時代」と野路氏は話す。

 グローバル企業として、開発・生産・販売・財務といった機能を横軸に、北米、欧州などの地域を縦軸に置いた「マトリックス経営」を標榜し、年1回各地域・各部門のトップがすり合わせを行う。リーマンショック以降は、一極集中で本社が戦略を立てている。

 構造改革の手段として、野路氏の前社長(坂根正弘氏)時代から着手したのが、「成長とコストの分離」と「販売価格の改善」だ。売上高と固定費を切り離し、固定費はCFOが管理する。難しかったのが、固定費と変動費の切り分け。ERPを導入し、費目はその定義に合わせた。「自前主義を捨てて、既製服に合わせた」と野路氏は形容する。変動費の改善と固定費の削減を徹底して行うことで、売上高が1兆円からほぼ倍増しても、固定費は横ばいという体質強化に成功した。

 イノベーション戦略については、ダントツ商品、ダントツサービス、ダントツソリューションの3つのステップで進めてきた。ダントツサービスの事例として、「KOMTRAX」(機械稼働管理システム)がある。当初は盗難防止が目的だったが、標準装備することで、販売金融や保守サービス、レンタル、中古販売など事業が拡大していった。「KOMTRAXは究極の与信管理。代金を払わないと遠隔操作でエンジンがかからないようにできることから、新興国での代金回収に役立った」と話す。

「IoT社会」に向けては、コマツのつながる建設現場「スマートコンストラクション」を推進していく。「建築現場の最大の課題は人手不足。その解決策がスマートコンストラクションだ」。ICT建機をはじめとした各種データをプラットフォームに入れることで、安全性確保、素人でも運転可能、施工能力の増大、付帯業務の合理化など、新たな付加価値が生まれるという。

 ここで問題となるのは、建設現場の生産性が上がれば建機の需要が減ること。しかし、「誰かに破壊される前に、自ら破壊していくことが重要。社会的課題と破壊対象の間に新しい価値はある」。また、「破壊的イノベーションは異業種から生まれる」とする野路氏は、自社のコア技術とオープンイノベーションの融合が不可欠と説く。

 「CxOは社長の戦略ブレーン。コマツではCTOとCIOが一緒になって将来ビジョンをつくっている。特にメーカーのCxOは技術を勉強してほしい。技術の理解が決断の早さにつながる。CFOも技術を知らないと事業の変革を支援できない」と助言した。