デジタルビジネスにとって「通信」は不可欠なプラットフォームだが、日本の通信インフラを支えてきた企業であるKDDIにとっても破壊者の脅威は決して他人事ではない。今やビジネスの境界線が揺らぎ、異業種間競争の時代に突入しているからだ。こうした中、KDDIは自ら変革にチャレンジし、日本企業がデジタル変革を進めるうえで直面する数々のハードルを乗り越えてきた。そのキーパーソンが、日本企業のデジタル変革への指針を語る。
縦割りを解消し
小さく始めて大きく育てる
破壊的なライバルの出現など、従来のビジネスモデルの変革を迫られる通信業界の動向について、どのように感じていますか。

ソリューション事業本部
ソリューション事業企画本部長
藤井彰人
藤井(以下・略) この劇的な変化が“ピンチ”なのか、“チャンス”なのかは考え方次第でしょう。ICT事業全体で考えると、私はキャリアがICTサービスの触媒になり、新たな価値をご提供できる素晴らしいチャンスだと捉えています。ネットワークサービスとしてのICTは拡大していますし、サブスクリプションビジネスとの親和性も高い。通信プラットフォームの提供とともに、お客さまのビジネス創造を支援していくことができます。
KDDIが自らデジタル変革に率先して取り組んでいる理由はなんでしょうか。
多くの企業がAIやIoTなどを活用した新しいビジネスの創造を迫られる中、そのプラットフォームを提供する企業としてデジタル変革は避けて通れないからです。
デジタル変革が目指すところは、新たな価値創造です。これからは、既存事業の価値を高めるだけでなく、これまでの領域から飛び出して新たな価値を創造していくことも求められます。
そこで、新たな価値創造に適した組織とプロセスをまず整えようと考えました。最初に手がけたのは企画開発手法(社内プロセス)の変革です。当社を含め、従来型の日本企業では企画・開発・運用が縦割りに組織され、バケツリレーのように開発が行われていました。しかし、今の時代、当初の企画がそのまま成功する可能性はかなり低い。これからのビジネス開発は、小さく始めて実装とテストを繰り返し、失敗したらすぐにフィードバックして改善する(あるいは捨てる)、成功したら大きく育てていく――というサイクルを速く回すことが必要です。そのため、当社では5年前にアジャイル開発手法を導入しました。
具体的には、上層部がリスクをとり、プロダクトの責任者に権限を委譲。そして、製品ごとに企画、開発、運用の人員を一つの部屋に集め、一体となって作り込む「スクラム手法」によって自律的なチーム作りを行いました。最初は数人の組織でしたが、今は「アジャイル開発センター」として独立し、200人規模に。サービスリリースまでの期間短縮や効率的な開発、技術力向上などで効果が上がっています。