自社にとっての「優秀さ」とは何か
海外で目立つこうした採用手法は、いずれ日本でも当たり前になる、と服部氏は語る。そのキーワードは、独自性と多様性だ。優秀で多様な人材を確保するために、独自性の高いコンテンツを提供できるオウンドメディアで自社の魅力を発信していくことが重要なのだ。
「しかし、採用基準を『コミュニケーション力』や『主体性』といった漠然とした言葉で理解した気になったまま、採用方法だけを変えてもうまくいきません。まずは『自社が求める優秀さ』を定義することが大切です」と、服部氏は強調する。
コミュニケーション力と一言で言っても、売り込むのか、説得するのか、調整するのか……。ミッションが違えば求められる力も変わる。面接でハキハキとプレゼンできたからといって、実務上のコミュニケーションがうまくいく保証はない。自社が求める人材を見極めるには、自社が求める人材像をあらかじめ明確にしておくのは当然といえる。
「サッカーで考えてみてください。どんなチームでもうまい選手が欲しい。しかし、身体能力とテクニックがずばぬけた一流選手なんて、そんなにいるものではありません。では、どんな観点で選手を選抜すればいいのか。例えばオランダでは、代表選手に求める能力を『フットボール・インテリジェンス』と表現しています。具体的にいうと『複数の選択肢があり得る局面で瞬時に確率を計算し、確度の高い選択を実行する能力』です。だからオランダでは、単純な身体能力の高さやテクニックより、こうしたインテリジェンスの高い選手が優先して採用されるし、選手もそれを磨こうとする。ジュニアチームを視察したときも、コーチはことあるごとにプレーを止め『今、シュート以外にどんなオプションがあった?』『なぜシュートを選んだ?』と質問し、選手の選択が妥当かどうかを検証していました」
「チームにとっての優秀さとは何か」。その求められる「優秀さ」が正しく定義されているからこそ、選抜、採用、育成が一直線につながり、チームにとって望ましい選手が集まりやすい仕組みになっているのだ。
企業においても「自社にとっての優秀さとは何か」と改めて問い直すことから採用の変革が始まるといっていいだろう。
「社内で『優秀な社員』として想起されるイメージはある程度共通していると思いますし、そういった人物を評価するオリジナリティーの高い言葉も結構あると思います。まずはそういうところをヒントに、自社ならはでの優秀さを探ってほしいと思います」
入社後のリアルなイメージを発信
自社が求める優秀さをはっきりと言語化すると、訴えるべきターゲットが明確になり、オウンドメディアでの情報発信が生きてくる。
すると、次のステップでは、自社で定義した優秀さを備えた求職者の興味を引き付けるインターフェースを用意する必要がある。このとき、人事制度の細かい説明より、自社のポリシーやフィロソフィーを分かりやすく表現する工夫が必要だと服部氏は言う。
「この会社に入って働く自分の姿が明確にイメージできるかどうか。そしてそれは心地よさそうかどうか。ここが学生にとって大事です。例えばサイバーエージェントでは自社の雇用システムを『実力主義型終身雇用』と表現しています。シビアに実力を求めつつ、日本的なコミュニティーも大事にする。そんな同社の特色がよく表現されていて、刺さる人には強く刺さる絶妙な表現です」
人材の定着を望むなら、仕事のありのままの姿を伝えようとする誠実な姿勢も大切だ。
「例えば、人気企業の一つである野村総合研究所では、古くからポジティブ情報とネガティブ情報を組み合わせて情報発信し、入社前の期待感と入社後の現実のギャップを回避する工夫をしていました。会社案内では『VIPに会える』『大きなプロジェクトに参加できる』といったポジティブ情報を発信する一方、『スーパーマーケットが開いている時間に帰れない』『知的労働というより肉体労働』といった先輩社員のヘビーな実感も同時に伝えるのです。情報リテラシーの高い今どきの学生に、建前だけのポジティブ情報は通用しませんし、リアルな情報には、本当に自社に適性の高い学生だけをフィルタリングする効果もあります」
オウンドメディアには、長期的に採用活動をブラッシュアップする効果もある。どのような基準でどのような採用を行い、どれだけ人材が定着してどんな成果を上げたか。オウンドメディアを適切に運用することでこうした検証が容易になり、採用のPDCAサイクルを回しやすくなるからだ。