構造化されていない情報では
DXの成果が出せない
製造業の上流工程は、企画・設計・生産技術で構成されている。企画部門での商品企画書、設計部門でのCAD図面、生産技術部門でのQC工程表や生産設備仕様など、各部門が生み出す情報が上流から下流に向けて詳細化されながら、製品が形づくられていく。
DXを通じて製品価値を高めるには、工場、販売・サービス現場、製品利用環境という下流工程(発信側)で生まれる膨大なデータから意思決定に必要な情報を見極め、上流工程(受信側)に迅速かつ適切に反映しなければならない。その際、予期せぬ不整合を防ぐには、情報の構造化が不可欠である。
情報の構造化とは何かを簡単に説明しよう。発信側の情報は、実態データ、原単位データ、背景データに大別される。実態データとは製造現場や利用環境における各オペレーションの実績であり、原単位データとは実態データの良し悪しを評価するための指標。背景データは、実態データに何らかの特徴的な傾向が見られる場合に、その意味付けを補足する情報である。受信側の目的に応じてコンパクトに設計された3種の発信側データが揃って初めて受信側にとって意味のある情報となり、アクションにつなげることができる。
「見える化」と称して大量の実態データを集めても、成果を出せずにいる例がよく見られる。これは、原単位データと背景データを意識していなかったり、取得がうまくできていなかったりして、データを正確に解釈できないからだ。原単位データは、紙に印刷されたデータや表計算ソフトのデータとして散在しており、デジタルデータとしての登録には労力を要するが、画像スキャンとAIによる画像処理技術の活用がその軽減に役立つ。また、背景データ取得の難しさは、下流工程ではどのようなデータを取ればいいのかわかりにくい点にあるため、受信側の目的と情報構造の理解が必須である。
一方、受信側の情報は、製品がどんな要求を満たすかという要件データ、要件に沿うために製品がどんな機能を持つべきかという仕様データ、仕様が要件を満たせるかを検証するための解析データで構成される。互いが関連付けられることが、下流工程に精度の高い情報を速く流すために必要である。
この受信側の3種データを発信側から来る3種データに基づき変化させ、製品開発過程に沿って流す必要がある。しかし各部門内でのデータ構造化と部門間での情報連携がそもそも十分でないため、情報がうまく伝わらない例が多い。まずは、昨今充実してきたデータ連携ツールなどを活用して、情報連携基盤を確立することが求められる。
こうした製造業特有の情報構造の設計・構築を含めてDXを推進するには、一般的なDXで語られる組織改革手法、IoTやデータ分析などの技術に加えて、製造業の文化、事業・組織・製品の構造、業務プロセスへの深い洞察が必要になる。我々は、多くのプロジェクトを通じて蓄積してきたこれらの知見をもとに、今後も製造業のDXを全力で支援していきたいと考えている。
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