米マサチューセッツ工科大学出身の工学博士3人により2000年に創業されたザイオネックス(韓国・ソウル市)。同社は、グローバル製造業を中心にサプライチェーンマネジメント(SCM)および製品ライフサイクルマネジメント(PLM)の領域で、ソフトウェアとコンサルティングサービスを提供。人と組織のコラボレーションをテーマに顧客企業のデジタル変革(DX)を支援している。
ザイオネックスの日本法人トップである藤原玲子氏は、2019年に米国で開催された2つの国際イベントに参加し、「感銘を受けた」という。SCMとPLMの専門家が世界各国から集結したそれぞれのイベントで大きなテーマとなったのは、いずれもDXだった。
DXがテーマとなるイベントといえば、われわれは最新のデジタル技術やその活用法にフォーカスした講演や展示を想像しがちだが、「私が参加した2つのイベントに共通するメッセージは、テクノロジーはあくまでも手段であり、DX実現において最も重要なのは人と組織の変革であるというものでした」(藤原氏)。
専門知識体系を生かすために
協業プラットフォームが必要
DXとは、AI(人工知能)やIoTといった特定の技術を使った個別の業務や製品の改善を指すものではない。「DXは、デジタル技術を活用して業務の高度化や新たな価値の創出を実現し、ビジネスモデルの変革を図ることです。これは、人材や企業文化の継続的な変革がベースとなる長い旅であり、何よりも“人”が重要であるというメッセージに私は感銘を受けたのです」と藤原氏は語る。

藤原玲子氏
藤原氏が参加したイベントの主催団体の一つであるASCM(サプライチェーンマネジメント協会)は、教育をその活動の主軸としており、各種の国際認定資格の普及を通じて、SCMに関するグローバル標準の専門知識体系の習得を多国籍企業に促している。
こうした標準化とDXは一見、何の関係もないように思われる。だが、販売や製造などの拠点が世界各地に広がる中、多国籍企業グループの内部において、さらには取引先などを含む外部の組織とも緊密に連携しなければ、業務の高度化や新たな価値創出は実現できない。そこで基盤となるのが、グローバル標準の知識体系や専門用語である。すなわち、DXの流れが加速する中で、標準化された「共通言語」の価値がますます高まっているのである。
一方で、DXをドライブする核となるのは、データである。人や組織が標準化された専門知識体系という共通言語を身につけていたとしても、開発・生産・販売などの各拠点間がデータでつながっていなければ、円滑かつ迅速にコラボレーションすることはできない。人と組織という基盤がその能力を発揮するには、データに基づく組織内外の協業を支援するプラットフォームが欠かせないのである。
「現代のものづくりは、製品ライフサイクルの短命化や世界の地域別マーケットに合わせた開発件数の増加に伴い、全体のプロセスが複雑化しています。このため、製品の開発、生産、サプライチェーン、販売後のアフターサービスまで、エンド・ツー・エンドの情報が組織内外でデジタルデータとして共有され、製品軸・プロセス軸でマネジメントできるプラットフォームが必要不可欠となっているのです」と藤原氏は指摘する。
では、デジタルデータの共有化とコラボレーションをどのように進めればいいのか、ザイオネックスが支援したプロジェクトを事例に紹介しよう。
日本のある重工メーカーのロボット事業部門では、一人のプロジェクトマネージャー(PM)が常に複数の設計・開発プロジェクトを掛け持ちしているため、プロジェクトの計画、要員や外注のマネジメントに苦慮していた。