「au WALLET クレジットカード」の会員数が500万人を突破するなど、順調に業容を拡大するKDDIフィナンシャルサービス。同社はいま、創業ステージを抜け、新たな成長ステージへと差しかかった。どのような組織づくりによって、次の成長を目指すのか。社長の石月貴史氏に聞いた。
創業ステージを抜け
次の成長ステージに入った

Takashi Ishizuki
1990年、旧第二電電(現KDDI)入社。財務部などを経て、じぶん銀行の創業に参画。2011年KDDIに帰任、新規事業統括本部 新規ビジネス推進本部 事業開発部長として、「au WALLET構想」の具現化に向け、KDDIフィナンシャルサービスの設立を企画。2014年、同社設立と同時に社長就任
「当社はいま、次の成長ステージに入りました」。KDDIフィナンシャルサービスの設立時から経営の陣頭指揮をとってきた石月貴史氏は、そう語る。
同社は現在、「au WALLET クレジットカード」で知られるクレジットカード事業、決済代行事業、銀行代理業、そして、2019年4月から開始した小額ローン事業という4つの事業を展開している。なかでも、クレジットカード事業は14年10月のサービス開始から年間100万人ペースで会員を増やし、19年10月に有効会員数が500万人に達するなど、順調に業容を拡大している。さらに、20年春には新たな事業をスタートする計画もある。
石月氏によると、会社を発足させる前に、この5つの事業はすでに構想していた。そして、「その構想を実現させるために、トップダウンで事業化とその拡大を推進してきた」という。
だが、これから先は石月氏にとっても、未知の領域へのチャレンジとなる。「私一人で考えられることには限界があります。ですから、当社はいま、従来の金融という既成概念にとらわれない新しい発想を必要としているのです」(石月氏)。
社員の新たな発想とチャレンジを引き出すために、19年度下期から現場への権限委譲を始めた。石月氏の判断を仰がなくても、現場や幹部社員たちが即断即決できる領域を増やし始めたのだ。
社長のトップダウンによって組織を引っ張る創業ステージから、社員一人ひとりの創造力と行動力によって事業をドライブしていくステージへーー。それが、石月氏がいう「次の成長ステージ」の一つの意味である。
「次の成長ステージ」には、もう一つの意味がある。それは、KDDIグループとしての成長戦略に関連する。
KDDIグループは、通信サービスを中心に、コマース・金融・エネルギー・エンターテインメント・教育などのライフデザインサービスを提供し、「通信とライフデザインの融合」による、新たな顧客体験価値の創出を目指してきた。
特に金融サービスについては、通信業界においてライバル各社をリードしてきた。08年にモバイルインターネットバンキングのじぶん銀行を設立後、14年にはau IDを軸にネットとリアルを融合する「au WALLET構想」を始動させ、au PAYを含め単純合算で利用者は3300万人を超え、au経済圏流通総額は2.5兆円の規模に拡大している。これをさらにスケールアップすべく19年からKDDIグループが始動させたのが、「スマートマネー構想」である。
消費者の生活の中心となっているスマートフォンを入り口として、預金、決済、投資、ローン、保険などさまざまな決済・金融サービスを総合的に提供し、顧客のライフプランに沿ったニーズにワンストップで応えていく。それが、スマートマネー構想だ。
19年4月には、KDDIフィナンシャルサービスやじぶん銀行、au損害保険、auカブコム証券などのグループ金融事業が連携していくうえでのハブとなる中間持ち株会社「auフィナンシャルホールディングス」を発足させ、その進化を加速させようとしている。
「スマートマネー構想を通じてお客さまに新たな体験価値を提供していくためには、グループ各社、必要に応じてグループ外の企業とも連携しながら、これまでにないサービスを生み出していく必要があります」と石月氏は語る。そして、「信用供与という当社のコアコンピタンスを軸にしつつも、いろいろな人たちのアイデアを採り入れ、いままでと違う文脈で物事を咀嚼する。それができないなら、新たな挑戦はできないかもしれません」と続ける。
その意味においても、KDDIフィナンシャルサービスは次の成長ステージに差しかかったのである。