5G時代が到来して通信速度が飛躍的に上がることにより、大きな進化が期待されるデジタルサイネージ。デジタルサイネージとは、ディスプレイやプロジェクタに映像や文字を表示する媒体で、中でも注目が「デジタルOOH」である。OOHは「Out Of Home(屋外広告、交通広告、商業施設内広告等)」の略で、張り紙、看板などもっとも古くからある広告手法といえる。デジタル化したOOHがネットワークとつながることで、何が可能になるのか。そして広告技術の進化は、社会をどう変えるのか? LIVE BOARD代表取締役社長・神内一郎氏と、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科・中村伊知哉教授による対談をお送りする。

日本の広告の現状
中村伊知哉氏(以下、中村) ここ10~20年の大きな動きとして、4マス媒体(テレビ・新聞・雑誌・ラジオ)中心から、ネット広告を中心とするデジタル広告重視へのシフトが続いています。スマートフォンやデジタルサイネージなどの新しいメディアが広がり、広告もこうしたデジタルメディアを中心に考えざるを得ないようになってきた。そして今、さらに次なる展開が訪れようとしています。それは広告がデータビジネスになりつつあるということです。データに基づいて適切な広告をその都度打てるような進化。その大きな波が来ています。その中で「メディアの戦略をどう考えるか」ということが世界的な動きでもあります。
神内一郎氏(以下、神内) 実際には、広告主の課題は昔から変わっていません。自分たちの作っているものをいかに広く知ってもらい、最終的に購買につなげるか。それはどの時代も同じです。
テクノロジーの進化によって、よりピンポイントに効率的な広告を打つ手段が生まれ、マーケティングにおいても、より具体的な計測が可能になりました。そうなると、広告主の立場では「自分たちが投下した予算が正しく使われたのか」という説明責任が求められます。特に上場企業であれば株主に対して、自分たちが使用する費用の正当性を明らかにする必要があります。「届けたい人に、正しく届けているのか」ということが課題になっています。
以前はメッセージを届ける相手というのは、テレビや新聞などのメディアに委ねられてきたのですが、今は「自分のオーディエンスが誰なのか」ということを明確に定めて広告を打ちます。例えば、予算が1億円あれば、ターゲットに対しどのように最適に配分するかと考える。「どのメディアで」というよりも、「それぞれのメディアに対する最適な予算の分配」が重要になっているのです。
中村 確かに昔は、ほぼテレビと新聞で事足りました。家にいる人をターゲットにしていればよかったですから。そこにPC、スマートフォン、デジタルサイネージといった新しいメディアが現れ、街中や職場など、どこにいても情報が届くようになった。広告を出す側はこうしたさまざまなメディアを適切に使いこなし、届けているかどうかを問われるようになる。広告主が自分たちのビジネスを、説得力をもってフィードバックできるようになっているということが、広告メディアのポイントになっています。
神内 そういう背景があって、広告主の立場として“分かりやすいもの”に予算がシフトしています。理由はシンプルに「効果が分かるから」。先日は電通が「2019年の総広告費で、ついにネット広告がテレビ広告費を超えた」と発表しました。オンライン広告がこれだけ浸透しているのは、広告効果の指標が正しく計測でき、効果が分かりやすいからです。テレビ広告で効果を測ろうと思ったら、後日別途で調査する必要があった。しかしオンラインであれば、見られた数やクリックした数、資料を請求した数がリアルタイムで正確に集計できます。