コロナショックから新たな日常が生まれつつある現在でも、企業を取り巻く環境は先行きの見えない大きな不確実性に包まれている。デロイト トーマツ グループのCSOである松江英夫氏は、「DIAMOND Quarterly 4周年フォーラム」に登壇し、この不確実性を捉える上で「両極化」という視点を提示した。相反する事象や価値観が増大し、広がっていくというこの時勢は、企業経営にとって一見ネガティブな要素に見えるが、むしろ構造変革のチャンスであるという。ポストコロナの経営にはあまねく変革が求められ、その構想において「デジタル」が重要なイシューであることは論をまたない。しかし、これまでのビジネスを単にデジタルに置き換えるだけでは、持続的な成長のチャンスを逃すことになる。重要なことはこれまではつながらなかったものをデジタル・テクノロジーでつなぎ、その接点に新しい価値を見いだしていくことである。ポストコロナにおける両極化の増大をチャンスに変えるデジタル経営の要諦を説く。

コロナショックが拍車をかける両極化をどう融合していくか

 コロナショックによるGDPの落ち込みは激しく、リーマンショックをはるかに上回る世界的な経済の落ち込みを余儀なくされています。それとともに浮かび上がってきたのが、「両極化」という時代の大きな構造変化です。ここでいう両極化とは、二極化を含むより広義の概念として、相反する力が同時に高まっていく現象を指しています(図表1)。

松江英夫(Hideo Matsue)
デロイト トーマツ グループ CSO(戦略担当執行役)
経営戦略・組織改革/M&A、経済政策が専門。フジテレビ「Live News α」コメンテーター、中央大学ビジネススクール客員教授、事業構想大学院大学客員教授、経済同友会幹事、国際戦略経営研究学会理事。主な著書に『両極化時代のデジタル経営——ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社、2020年)、『自己変革の経営戦略~成長を持続させる3つの連鎖』(ダイヤモンド社、2015年)など多数。デロイト トーマツ グループに集う多様なプロフェッショナルのインサイトやソリューションを創出・発信するデロイト トーマツ インスティテュート(DTI)の代表も務める。

 例えば、グローバル化が進展する一方で、近年はある種の保護主義や反グローバリズムが非常に大きな力を持ってきています。米中の対立などもその典型の一つといえるでしょう。今回の本題であるデジタル化についても、GAFAのような巨大なプラットフォーマーが登場する一方で、GAFA分割の是非や個人のプライバシー保護の重要性についても多く論じられています。

 また、企業のソーシャル化についても両極化の現象といえるでしょう。株主の資本効率を高めるという経済価値を最大化していくことと同時に、企業は社会課題を解決することによって社会価値を高めることが求められています。ESG投資やSDGsへの取り組みが注目されていることにもそれは表れています。特にこの経済価値と社会価値をいかに高次元で両立させるかという観点では、日本企業が外資系グローバル企業に比べてとりわけ立ち遅れている部分といえます。デロイト トーマツが実施したサーベイの結果1を見て分かるように、日本の経営では、いまだに企業としての利益追求と社会課題の解決を別物と捉えられており、この両立が経営モデルとして組み込まれていません。

 今回のコロナショックがこうした両極化の流れに拍車を掛けました。中途半端なものや無駄がそぎ落とされ、本当に必要とされるもの、つまり「本物」が残る時代を迎えつつあります。ポストコロナにおいては、両極化という時代の構造変化を念頭に置きながら、両極のどちらか一方を選択するのではなく、それぞれの必要性を認識しながら、どうつないでいくのかが問われます。それに合わせて、いかに経営のモデルを変えていくのか――。非常に難しい時代を迎えているといえます。

[1] 第四次産業革命における世界の経営者の意識調査(2020年版):https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20200121.html