生産性向上というと、労働時間の短縮や労働人員の削減に目が行きがちだ。しかし、それだけでは付加価値は増大しない。新たな価値創造につながるイノベーションが停滞しているといわれる我が国において、正しい生産性向上アプローチとは何なのか。働き方改革プラットフォーム「TeamSpirit」を提供するチームスピリットの荻島浩司社長と、早稲田大学大学院・ビジネススクールの入山章栄教授が語り合った。
(本稿は、入山教授がパーソナリティを務める文化放送のラジオ番組「浜松町Innovation Culture Cafe」にゲスト出演したチームスピリット・荻島社長との番組内での会話と、番組終了後に両者が行った対談を基に構成したものです)

入山 「TeamSpirit」は、勤怠管理や工数管理、経費精算などの機能を一体化したユニークなプラットフォームだそうですが、なぜこのようなプラットフォームを開発したのですか。
荻島 1996年に、現在のチームスピリットの前身に当たるデジタルコーストという会社を設立しました。主にシステムの受託開発を行う会社です。
2009年に、当時まだあまり普及していなかったSaaS(Software as a Service)の可能性に注目し、その仕組みを使った法人向けサービスの提供を発案しました。翌10年に、プロトタイプとして勤怠管理とSNSを一体化したサービスの無償提供を始め、11年3月にβ(ベータ)版の提供を開始、12年にTeamSpiritとして正式にリリースしました。
サービス開始と同時に、社名もチームスピリットに改め、受託開発から法人向けSaaSの開発・提供へと、業態を完全に切り替えました。18年には東証マザーズに上場し、現在は1400社、30万人のお客様にご利用いただいています。
「やらなくていい仕事」を減らし「やるべき仕事」に専念する
入山 2009年と言えば、SaaSはおろか、クラウドもまだ一般的ではなかった時期です。なぜ、いち早くSaaSの可能性に注目したのですか。
荻島 当時はガラケー(旧式の携帯電話)で音楽を聴いたり、ゲームを楽しんだりする従量課金型サービスの全盛期でした。法人向けのソフトウェアを同じようにインターネット経由で提供すれば、ストックビジネスとして成り立つのではないかと考えたのです。
しかし、自前でサーバーを持ち、サービスを提供するとなると、相当な初期投資がかかります。折しも09年に米セールスフォースがパブリッククラウドのサービスを開始し、これを利用すれば開発・運営コストを抑えながら提供できるめどが立ったので、事業化に踏み切りました。
入山 TeamSpiritには、どのような特徴があるのでしょうか。
荻島 勤怠管理や工数管理、経費精算などの業務管理システムを一元化しているのが特長ですが、最大のメリットは、個別のシステムに入力する社員の手間を大幅に削減できる点にあります。
多くの企業では、出退勤の記録は勤怠管理、業務ごとに費やした時間の報告は工数管理、交通費などの請求は経費精算と、それぞれ別のシステムに入力しています。TeamSpiritでは、一度入力すると、その内容が一つのプラットフォーム上に反映されるので無駄な入力作業を減らせます。その分、より多くの時間を本来やるべき仕事に充てることができるわけです。
入山 日々の業務の中には、「やるべき仕事」と「やらなくてもいい仕事」が混在していますが、やらなくてもいい仕事を減らし、やるべき仕事に専念できるようにするためのプラットフォームと言えますね。