日本企業はイノベーションや新規事業開発が苦手だといわれてきた。そんな日本企業に、新規事業のアイデア創出から事業化、事業成長までを、プラットフォーム提供を含めワンストップで支援、ときには同社自身がリスクを取って投資して事業を共創するのがRelic(レリック)だ。その独自のアプローチを紹介する。

0→1の経験のない人が
新規事業をするということ

 気候変動、コロナ、少子化、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展など、企業を取り巻く環境は激変している。プロダクト・ライフサイクルが短くなり、国内市場も縮小し、これまでのように、既存事業の改善で成長を見込むことはますます難しくなっている。企業が成長するためには、新しく事業を開拓するほかに道はない。そのような危機感を持ち、多くの企業が新規事業を推進しているが、なかなか成功に至らないのが実情だ。

 なぜ大企業で新規事業が行き詰まるのか。Relicの北嶋貴朗代表取締役CEOは「多くの優秀な人材が大企業に集まっています。ただそのキャリアの大半が分業化された既存の事業における役割をこなすことに終始してしまっている人も多く、経営陣も含め、0から1をつくった経験のない人が多い。大前提として、新規事業は既存事業とはあらゆる前提が異なり、極めて不確実性が高い取り組みであるため、既存事業とは異なる知見や経験が必要です。にもかかわらず、経験のない人が経験のない人に新規事業創出を命じるという構造の歪みがあります」と指摘する。

Relic
代表取締役CEO/Founder
北嶋 貴朗
Takaaki Kitajima
慶應義塾大学卒業後、組織・人事系コンサルティングファーム、新規事業に特化した経営コンサルティングファームでの多様な事業のプロジェクト・マネジャーを経て、DeNAでEC事業領域での新規事業・サービスの立ち上げや、大手企業との共同事業の立ち上げマネジャーとして事業創出から成長を担う責任者を歴任。2015年にRelicを創業し、代表取締役CEOに就任。

「そもそものビジョンや新規事業に関する方針や戦略がないこと」「評価制度も含む、失敗を許さない組織風土や文化」「目的は新規事業の創出や成功であるにもかかわらず、方法論や手段に拘泥しがちで、自社の特性や事業の不確実性に応じた最適な事業開発プロセスを実行できていないこと」なども、失敗に陥りがちな要因だ。

 ベンチャーキャピタル(VC)を中心とした投資家からスタートアップに供給されるリスクマネーが急拡大するなど、近年は日本でもスタートアップのエコシステムは出来上がりつつあるが、北嶋氏自身はITメガベンチャーのDeNA在籍中に、大企業とのオープンイノベーションも含めた数々の新規事業を創出するなかで「大企業には、スタートアップからすれば垂涎の的の、多様で豊かな経営資源があります。それらを活用すれば、とてつもないイノベーションも可能なはずです。それが出来ていないのがあまりにもったいないのでは」との思いが募り、起業した。

 現在、日本には1万社以上のスタートアップがあるといわれるが、「成功するのはごくわずかであり、質と量の双方の観点で見てもそれだけでは影響力は限定的です。やはりあらゆる経営資源が偏在し、日本経済を支える大企業自体が新規事業を起こしていかなければ、その活力が日本経済全体に波及しません」(北嶋氏)。

 新規事業の支援をするサービスは他にもあるが、上流で戦略を練る、あるいは事業の設計をして終わりという企業が多いなかで、事業化、プロダクト化やその後の成長までをワンストップで支援するトータルソリューションを提供するのが同社の特長だ。なかでも独特なのは、同社自身がスタートアップ企業であり、自社で複数の新規事業を手がけ成功させている点や、外部からの支援だけでなく、同社自身がリスクを取って事業パートナーとなる選択肢も用意していることだ。

 同社の主な事業は三つある。(1)インキュベーションテック(2)新規事業プロデュース(3)オープンイノベーションだ(図表1)。

(1)は新規事業が生まれる仕組みや技術を組織に実装する。日本企業が新規事業や、イノベーション創出において直面する課題を解決するための、新規事業創出に特化した独自のSaaSやプラットフォームを提供する。

(2)はオーダーメードで戦略立案から実行および事業化に向けたプロダクト・サービス開発、事業成長までを一気通貫で支援する。

(3)はさらに踏み込んだ形の支援事業で、さまざまな制約で大企業単体では事業として展開できない場合などに、同社が事業パートナーとしてリスクを取る形で共同事業を開発したり、JVを設立するなど主体的にイノベーションの共創に取り組むものだ。