ESG経営の重要性が叫ばれるようになって久しいが、利益に直接結び付かないととらえられて、対応が後回しにされることも多い。しかし、ここにきてESGをめぐるリスクが顕在化し、企業の中長期的な成長の阻害要因となりかねない事態も起きている。ニュートン・コンサルティングに、ESGリスク管理の重要性と実践のポイントを聞いた。

取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント
勝俣良介氏
切迫感が乏しい
日本のESGリスク管理
ESGをめぐる問題によって、企業活動が停滞、または停止に追い込まれるケースは年を追うごとに増えている。
最近では、ある世界的な飲料メーカーが、インドの工場で大量の水を汲み上げ、水資源の枯渇を懸念する現地の人々から訴えられて操業を停止した。ベトナムで石炭火力発電所の建設を計画している日本企業に、学生らが理由を問い質すための公開質問状を送り付け、世界の注目の的になったことも記憶に新しい。
環境(E)関連の問題だけでなく、中国・新疆ウイグル自治区で強制労働によって生産された衣料が米国で輸入を差し止められるといった社会(S)関連の問題、上場企業がアクティビスト(モノ言う株主)の排除を試み、市場から批判を受けるといったガバナンス(G)関連の問題など、ESGのすべてにおいて、企業の成長を阻害する問題は増加の一途をたどっている。
その理由について、「かつては気候変動などと言われても実感が伴わなかったが、水害や記録的な猛暑などの実害を経験して、市民が自分事と感じるようになったこと。SNSの普及によって、企業が起こす問題の情報がたちまち世界中に広がるようになったこと。親世代に比べて不遇を強いられていると感じているZ世代が発言力を強めていることなどが原因ではないか」と語るのは、ニュートン・コンサルティング取締役副社長の勝俣良介氏。
従来、ESG経営は、CSR(企業の社会的責任)活動の延長線上にあるものといった程度に認識され、企業の社会的評価は高めるが、利益や成長には結び付かないものと考えられてきた。
しかし、「短期的な利益には直接結び付かないものの、中長期的にはESGリスクが思わぬ阻害要因となり、描いているビジョンの実現や事業の発展を妨げる恐れがあります。ESGリスクマネジメントは、緊急を要さないけれど、持続的成長のために欠かせない取り組みなのです」と、勝俣氏は指摘する。
にもかかわらず、日本企業がESGリスクに向き合う姿勢は「欧米などの海外企業に比べると切迫感が乏しいように感じます」と勝俣氏は語る。
海外企業の経営層は、市民活動の活発化や、ESG関連の法規制の強化といったトレンドを明確な脅威として受け止めており、「いかにその影響を抑えるべきか」という『How?』の観点で、ESGリスクマネジメントに取り組んでいる。
これに対し「日本の経営層の多くは、なぜESGリスクマネジメントを行わなければならないのかという『Why?』の段階にとどまっています。経営層が取り組もうとしなければ、現場が動くはずもありません。企業の持続的な成長に責任を負う経営層が率先して『Why?』から『How?』へとスタンスを切り替え、本腰を入れてESGリスクマネジメントの体制づくりに取り組む必要があります」と勝俣氏はアドバイスする。
そうした体制づくりを支援するため、ニュートン・コンサルティングが提供しているのが、「ESGリスクマネジメント構築・改善支援サービス」だ。