ESGやSDGsに対応した経営は、もはや避けて通れない時代となりつつある。だが、日本企業は海外企業に比べて対応への「本気度」が低く、課題解決を成長機会ととらえて戦略的に取り組む姿勢も弱いようだ。神戸大学大学院経営学研究科の國部克彦教授に、日本企業のESG経営の現状と問題点、取り組むべきポイントなどについて聞いた。

國部克彦教授
世界の動きをにらみながら
戦略的な取り組みを
ここ数年、ESG経営やSDGs経営が世界的に注目され、実践されるようになった。
これには複合的な理由がある。
一つは、20世紀から懸念されてきた地球温暖化による影響が、日常的な豪雨や猛暑、頻発する自然災害といった肌身で実感できる「出来事」となり、世界の人々の環境に対する関心が高まっていることだ。
「CO2排出削減のため石炭火力発電をなくせ」と訴える環境NPOやNGOなどの活動が企業にも及ぶようになり、問題意識の共有は加速度的に広がっている。
そうした意識の高まりを受け、金融市場でも、環境や人権問題などに配慮した経営を実践する企業に資金を投入しようとする動きが盛んになっていることも、ESG経営に拍車を掛けている大きな要因だ(ただし、現状ではESG経営と株価との相関ははっきり見られない)。
だが、「海外企業、特に欧州企業がESG経営を本格化しているのは、単に社会的責任を果たすことや、短期的な企業価値の向上が目的ではありません。そこに長期的な成長機会があると確信しているからこそ、本気で取り組んでいるのです」と、神戸大学大学院の國部克彦教授は語る。
なぜなら、欧州は地球環境問題とエネルギー問題とを密接に関連付けた戦略を描いている。再生可能エネルギーを中心としたエネルギー政策で社会経済の仕組みを変えるために、国際標準やイニシアチブを作り、それに沿って、産業行動の変容を迫っている。
「言い換えれば、欧州企業はEU(欧州連合)から成長のための『道しるべ』を与えられたようなもの。それに合わせて事業モデルや事業そのものの転換を図っていけば、社会に貢献するだけでなく、自社もサステナブルに存続できると考えるからこそ、戦略的なESG経営に取り組めるのです」と國部教授は指摘する。
翻って日本では、菅義偉内閣が今年4月、2030年度の温室効果ガスを13年度比46%減とする削減目標を掲げたものの、どうやってそれを達成するのかという具体的な政策は見えてこない。
欧州のように、政府が目標と手段を産業ごとにブレークダウンし、ロードマップを描くといった戦略的な動きは、日本では期待できそうにない。つまり日本企業は、世界の動きをにらみながら、独自の経営判断でESG経営の戦略を描いていかなければならないのだ。
「欧州が環境面で世界のイニシアチブを握り、それに合わせて海外企業が戦略的にESG経営に取り組むのなら、せめて『同じ土俵』で戦わないと勝ち抜くことはできません。とはいえ、海外の動きと歩調を合わせるのか、独自の成長戦略を描くのかは、グローバル化の度合いや事業規模、事業の内容によっても異なります。いずれにしても、他社がやっているからとか、世の中の動きだからという理由ではなく、会社が生き残るために不可欠な取り組みであるかどうかを見極めて、戦略的に取り組むべきではないでしょうか」と國部教授はアドバイスする。