日本が「失われた30年」を余儀なくされた原因は、メンバーシップ型雇用にある──。マーサージャパンの白井正人氏は、そう指摘する。人やスキルの入れ替えが起こりにくい、この日本独自の雇用形態は、グローバル化、デジタル化といった環境変化への対応が極めて難しいからだ。日本企業にはいま、ジョブ型雇用への移行が求められている

マーサージャパン
取締役執行役員 組織人事変革事業責任者
白井正人

日本が世界で勝てないのはメンバーシップ型雇用が原因

 バブル崩壊後の30年、日本経済は低迷しています。大きな要因の一つとして、日本企業に一般的なメンバーシップ型雇用が環境変化に合わなくなったことが挙げられます。環境変化とは主にグローバル化、デジタル化です。

 変化に対応するには、人材の入れ替え、あるいはリスキル(スキルの入れ換え)やスキルアップが不可欠ですが、年功序列や終身雇用を前提としたメンバーシップ型は、人材の流動性が低く、リスキルやスキルアップのインセンティブも働きにくいからです。

 メンバーシップ型雇用の根幹は、雇用保障と会社裁量による仕事の割り当てにあります。雇用の安定と引き換えに、新卒から40年間、会社にフルコミットすることを求められる雇用形態であり、異動や転勤を含めて会社は社員の仕事を自由に決める裁量を持ちます。

 雇用者と被雇用者は保護者と被保護者のような関係で、会社は疑似家族的な組織となります。人の出入りは少なく、人材は固定化されます。

 これに対して、欧米で一般的なジョブ型雇用は、ジョブを介した会社と労働者の対等な市場取引関係です。やるべき仕事があり、その仕事を遂行する能力を労働者が提供し、それに見合った対価を会社が提供する。双方合意でジョブが決まる点が特徴です。

 企業は人材獲得のため常に競争しますし、労働者もリスキルやスキルアップによって自分の価値を高める競争をします。ジョブ型は、人の出入りやスキルの入れ替えが行われやすいため、デジタル化、グローバル化といった時代の変化に強いのです。

 個人のキャリア形成にも大きな違いがあります。メンバーシップ型では会社の裁量で社員を動かすため、キャリア形成は会社の責任であり、個人はリスキルやスキルアップのモチベーションを得にくくなります。

 一方、ジョブ型では個人がキャリアを自由に選択し、個人の責任において、リスキル・スキルアップを図ります。個人が希望するキャリアを描いて、社内公募や転職を通じてステップアップしていくキャリア自律が前提になっているのです。