プロセスマイニングは、業務システムの操作記録である「イベントログ」を利用して業務フローを可視化するツールであり、業務プロセスの改善や異常検知、不正監視などに威力を発揮することから、欧州を中心に発展を遂げている。プロセス管理を重視する日本企業との親和性も高く、ここ数年で注目度も高まっている。

国内におけるプロセスマイニングの普及に向けて、2020年6月に発足したプロセスマイニング協会の百瀬公朗代表理事と、プロセスマイニングの専門組織「Deloitte Center for Process Bionic Japan」をリードする有川慶子パートナーが、プロセスマイニングがもたらす可能性について話し合った。

「ID」「アクティビティ」「タイムスタンプ」で業務を可視化する

有川 学術的なバックグラウンドを含めたプロセスマイニングの歴史と考え方について、解説をお願いできますか。

百瀬 プロセスマイニングは、オランダのコンピュータ科学者、ウィル・ファン・デル・アールスト氏(現在はドイツのアーヘン工科大学教授)によって、1999年頃に原型となる考え方がつくられました。単純に言うと、ビジネスプロセスを「ペトリネット」と呼ばれる手法で、丸と線を使って図式化する技術で、理論というより“道具”と言ったほうが正しいかもしれません。

 プロセスマイニングでは、3つのデータを使って図式化します。1つ目は線がつながる元となるユニークなキー、つまり「ID」です。たとえば、顧客から注文を受けると、受注IDや受注番号が伝票に記載されます。その伝票に基づいて、モノを仕入れたり、運んだり、納入したりする一連のプロセスが伝票番号でつながっていきます。それがIDです。

 2つ目は「アクティビティ」です。受注や在庫確認、商品の仕入れ、納入など、一つひとつの作業内容をアクティビティといいます。そして3つ目が、それぞれのアクティビティが実行された時間を示す「タイムスタンプ」です。IDとアクティビティ、タイムスタンプの3つのデータがあれば、業務の流れを可視化することができます。

 たとえば、私がeコマースで本を注文したとします。受注番号に基づいて商品である本が引き当てられ、それを梱包して、配送業者に渡して、配達されるという一連のアクティビティがあります。ところが、注文を間違えたのでキャンセルするとか、追加で別の本を注文したので一緒に運んでほしいとか、そうした要望に応えていくと、基本的な業務の流れとは別の新たなパターンが出てきます。また、注文の内容や数量を間違えたりすると、それらに対するアクティビティがどんどん増えて、例外的なパターンが生まれます。

 では、図式化によって何がわかるのか。プロセスマイニングには「ディスカバリー」(発見)、「コンフォーマンス」(適合)、「エンハンスメント」(改善)の3つの効果があるといわれます。

 ディスカバリーは先ほど申し上げたペトリネットを使い、プロセスを可視化することです。可視化して、「通常はこんな動きなのに、この動きは少しおかしい」といった違いを見つけるのがコンフォーマンスです。リベートを抜くような動きや、承認を得ていないのにモノが流れているという事後承認の動きなどは、表面上はわかりにくいのですが、プロセスマイニングでは「To be」(あるべき状態)と「As is」(現状)を比べることで、正常な動きとは異なるものを抽出することが可能です。

 エンハンスメントは、癖を見抜いて、システム上で警告を出すような仕組みをつくることです。たとえば、タイの工場に部品の生産を依頼すると、特定の部品の生産だけがいつも遅れるという癖がわかったとします。その場合、タイ工場に注文を出す時には、「〇日以内に注文を出さないと、納期に間に合わない可能性がある」という警告があらかじめ出る、といった具合です。

有川 プロセスを可視化して、違いを見つけるだけではなく、次のアクションにつなげることは、業務プロセスの改善でプロセスマイニングが果たす大切な要素ですね。また、コンプライアンスやリスクマネジメントの観点から、モニタリングツールとしての機能もプロセスマイニングの重要な活用ポイントと考えています。