企業と企業、サイバー空間とフィジカル空間が、デジタルでつながる世界を実現するのがDX(デジタル・トランスフォーメーション)とするなら、サイバーセキュリティの変革にも一体的に取り組まなくては、DXの持続可能性を高め、真の変革を達成することはできない。DXコンサルティングファームとして数々の企業を支援するRidgelinez(リッジラインズ)の藤本健氏と隈本正寛氏は、そう断言する。

Ridgelinezプリンシパル リスクマネジメント 藤本 健氏(左)、同プリンシパル ファイナンシャルサービス 隈本正寛氏

金融のデジタル化に伴い
リスクの影響が広範囲に及ぶ

 金融のデジタルシフトが加速している。それを象徴するのが、さまざまなサービスに金融機能を組み込む「エンベデッド・ファイナンス」(組み込み型金融)だ。ふだんよく使うスマートフォンアプリで、決済や入出金といった金融サービスをシームレスに利用できる。そうした経験を持つ読者も多いだろう。それが組み込み型金融と呼ばれるものであり、金融機関と非金融事業者がシステム連携することで、こうした便利な機能を提供している。

 さらには、デジタル化した金融機能とモビリティやヘルスケアなどのサービスを組み合わせることで、次世代のスマートモビリティ、スマートヘルスといった業界横断型のサービスモデルを構築する動きも広がっている。

「あらゆる産業でサービス化が進み、企業や業種の枠を超えて多様なプレーヤーが、デジタルでつながり始めています。DXを推進するうえでそれは欠かせないことですが、つながることによるリスクも事業戦略策定の段階で織り込んでおかないと、思いも寄らないリスクにさらされることになります」。リッジラインズで金融サービスを統括する隈本正寛氏は、そう警鐘を鳴らす。

 たとえば、これまで金融機関は堅牢なシステムを構築し、自社のチャネルを通じてサービスを提供してきた。その限りにおいては、自社グループにおけるサイバーセキュリティやコンプライアンス対策に万全を期せばよかった。

 言わば「閉じたシステムの中で個々の組織体としてリスク対応に取り組めばよかったのですが、外部とつながることを前提とした場合、エコシステム全体として適切なリスクマネジメントに取り組むことが求められ、それは経営レベルでのアジェンダとなっています」(隈本氏)。