DevOpsの成功は企業収益の向上に直結

 アジャイル開発も、DevOpsも最近になって登場した概念ではなく、ともに2000年代の初め頃から存在していた。

「欧米では標準的な手法として、アジャイル開発やDevOpsが企業で当たり前のように行われています。中には、開発部門と運用部門をDevOps部門へ統合したところもあります。日本でも関心が高まっていますが、普及と実践のレベルは、欧米とかなりの差があるのが現実です」(鷲﨑氏)

 DevOpsが日本で普及してこなかった要因の一つは、日本企業におけるIT組織のあり方にある。欧米企業の場合、非IT企業(以下、一般事業会社)であっても、ソフトウェア開発の担当組織とITシステムの運用組織がともに社内に置かれているのが一般的だ。それに対し、日本の一般事業会社では、ソフトウェア開発のチームを社内に持たず、外部の協力会社に開発業務を委託するのが通常だ。運用についても協力会社に委託していることが多い。その組織構造の中でDevOpsの体制を築くのは非常に困難だった。加えて、DevOpsに取り組む日本企業の姿勢にも問題があったと鷲﨑氏は指摘する。

「DevOpsの取り組みは、関係者間で信頼関係を持って密接なコミュニケーションを図り、顧客志向で高速かつ継続的に改善を繰り返していく組織文化を醸成する試みでもあります。その文化を醸成するうえでは、DevOpsによって実現したい事柄や成果といった目的が明確でなければなりません。ところが日本企業の場合、技術ありきでDevOpsを始めること自体が目的化してしまい、文化や目的、体制が整わないままにDevOpsの実現に向けたCI/CDツール(注3)を導入するケースが散見されてきました。そのような状態では成果を実感しにくく、かえって手間がかかってしまい、導入したツールが放置されることがよくありました」(鷲﨑氏)

 では、こうした種々の課題を乗り越え、DevOpsを実現することでどのような経営効果が期待できるのだろうか。その問いかけに、鷲﨑氏はこう答える。

「DXによってビジネスの付加価値向上に成功した企業の利益率は、そうではない企業より高くなっています。そうしたDXの推進に向けて、ビジネス目標に接続して価値の迅速な検証や改善を進めるDevOpsの実現こそ経営トップが率先すべきテーマです。その達成に向け組織体制を整え、そのうえで機能するように高速化・自動化の基盤を整備することです。私が関わっているアジャイル品質パターン集でも『(先送りせず)まずは自動化』と提言しています」

 鷲﨑氏によれば、DevOpsの技術面については方法論や、高速化の基盤となるCI/CDツールならびにテスト自動化ツールの整備も進んでいるという。セキュリティ上の問題を検出するツールにより、セキュリティを全体の流れに組み入れたDevSecOpsも実現しやすくなっている。変化の時代に、企業が市場での競争力の維持、強化を図りたいなら、DevOpsの実現へと動くことが大切であり、その機は熟しつつあるというわけだ。

注:
1)米国のケン・シュエイバーとジェフ・サザーランドが、トヨタ自動車のカイゼンの手法などを参考に策定した製品開発の手法。プロダクトオーナーと開発者が少人数のチームを組み、毎日ミーティング(デイリースクラム)を行いながら、開発やテスト、レビューなどを繰り返していく開発方式。
 
2)アジャイル開発の概念は、2001年に米国の開発者たちが発表した「アジャイルソフトウェア開発宣言」(Manifesto for Agile Software Development)によって定義され、その考え方に基づいてDevOpsのコンセプトが生まれたとされる。
 
3)ソフトウェアの開発からデリバリーまでの作業(プログラミングしたコードのビルド、テスト、結合、デプロイといった一連の作業)を高速化・自動化するCI(continuous integration:継続的インテグレーション)/CD(continuous delivery:継続的デリバリー)のパイプラインを構成するツールを指す。