野村総合研究所
メドテックコンサルティング部 グループマネージャー
高田篤史氏(写真右)

Kaien
代表取締役
鈴木慶太氏(写真左)
サマリー:「ニューロダイバーシティ」は発達障害などを「欠如」ではなく「多様性」ととらえ、誰もが広く活躍できる社会を目指す考え方だ。いま、どこまで進んだのか。これからどうすべきか。この分野に詳しい2人が語った。

脳や神経を表す「ニューロ」と多様性を表す「ダイバーシティ」を組み合わせた言葉が「ニューロダイバーシティ」。発達障害などを「欠如」ではなく「多様性」ととらえ、誰もが広く活躍できる社会を目指す考え方だ。ニューロダイバーシティはどこまで進んだのか。これからどうすべきか。この分野に詳しい野村総合研究所メドテックコンサルティング部の高田篤史氏と、発達障害に特化した就労支援を行い、日本橋ニューロダイバーシティプロジェクト※の協力企業であるKaien代表取締役の鈴木慶太氏が語った。

IT系だけとは限らないニューロダイバース人材

高田 ニューロダイバーシティの認知度はだいぶ広がってきたと感じます。ただ、女性活躍やLGBTQと比べると浸透はまだまだ。「初めて聞きました」という声も少なくないですね。 

鈴木 人権の文脈から、発達障害(神経発達症)などを“脳の特性の違い”と受け止め、多様性を尊重しようというのがニューロダイバーシティですが、日本ではまだ障害者雇用の文脈で考えている人がほとんどです。かといって、いわゆる「天才を探すための取り組み」みたいな考え方も“ドアノックツール”としての意義は否定しませんが、そろそろもう一歩二歩進んだ話をしてもいい頃だと思います。

高田 神経発達の多様性を持つニューロダイバース人材は、必ずしもIT系だけではないですからね。 

鈴木 実は、そこには私も責任を感じています。そもそも起業のきっかけがスペシャリスタナというデンマークの企業を知ったことでしたので、ITのことばかり言ってきてしまいました。同社は従業員の75%がアスペルガー症候群などの発達障害の人たちですが、マイクロソフトなど世界の名だたるIT企業を顧客に持ち、2004年の創業以来黒字経営を続けています。でもいまスペシャリスタナは養豚業にも取り組んでいます。豚とコミュニケーションを取るのが上手な人がいると……。

 ニューロダイバース人材にはIT系に限らず、いろんな業界、職種で活躍できる人がいますので、IT系に特化したような誤解は解いていかなければならないと思います。

高田 そうですね。私はニューロダイバーシティの調査や啓発活動を始めて3~4年が経ちますが、当初、日本の産業界の関心を引くには、「海外の有名企業が取り組んでいる」とか「IT人材として採用が進んでいる」とか、相手のイシューに引っかかる“看板”を掲げなくてはなりませんでした。ニューロダイバーシティをテーマにしたセミナーなどを開催したときも、来るのは障害者雇用担当者ばかり。本来は人事担当やダイバーシティ担当の方にこそ参加してもらいたいテーマなので、タイトルワークなどを工夫して、できるだけ関心を持ってもらえるようにしています。

※日本橋ニューロダイバーシティプロジェクト
ニューロダイバーシティ普及に賛同した東京・日本橋周辺の企業が啓発活動を行うため、2022年10月13日に発足した共同体。武田薬品工業が企画・運営し、賛同企業・団体として花王、野村ホールディングス、三井不動産など計15社が参画(2024年1月時点)。