1969年にマーケティング分野で新しいムーブメントがありました。マーケティングを企業だけでなく、すべての組織や人々に広げようという動きです。教会もマーケティングの力で人々を集めたいですし、大学も優秀な学生を集めるためにブランディングとマーケティングが必要です。地方自治体も変革に対し市民の承諾を得る必要があります。
マーケティングはすべての組織で行われるものです。私と友人のシドニー・レビー(『Broadening the Concept of Marketing』の共著者)がそう唱えた当初、人々から反論を受けました。マーケティングは企業だけが行うもの、と言われたのです。しかし、いまやすべての組織、そして個人でさえもブランディングやマーケティングを行っています。
私たちがマーケティングを大局的に見るようになったのは、技術進歩の影響があります。紙媒体の広告は昔からありました。その後、ラジオやテレビが登場し、さらにはコンピュータとインターネットが発達しました。デジタル革命が到来し、インターネットやSNSがマーケティングツールとなりました。eコマースの登場によって、人々は店舗に行かなくても商品を購入できるようになりました。
テクノロジーの発達によって、消費者も企業も賢くなりました。近年の消費者はスマートフォンを持っており、これは高性能のコンピュータを持ち歩いているのと同じです。あらゆる情報源にアクセスして商品について尋ねたり、特徴や価格、競合製品を調べたりできます。
ある商品を購入しようと消費者が店を訪れた際、価格が500ドルだったとしましょう。消費者はこう言うでしょう。「同じ商品をもっと安く売っている店があるはずだ」と。そして同じ商品が450ドルで売られていることを、店員に示します。店員は価格を下げずに販売機会を逃すか、450ドルに値下げするか、決断を迫られます。値下げしなければ、ネガティブな情報を拡散されるかもしれません。消費者は大きな力を得たのです。
次は企業の側を見てみましょう。マーケターは従来よりも、消費者や競合他社、チャネルについて多くの情報を得られます。集めたデータをコンピュータに取り込み、重回帰分析やクラスター分析を使い、さらには機械学習を組み合わせて消費者の行動をより深く理解できます。
マーケティング作業を自動化するマーケティングオートメーションが進み、スピードが向上しました。観察したい主要な測定値をPC画面で見て、自分たちが目標に対してどの程度近づいているか確認したり、マーケティングミックスを変更した際に起こる変化を予測したりすることもできます。
現代のマーケターが知っておくべき新たなツール
『マーケティング・マネジメント』の第16版では、現代マーケティングの特徴を紹介しています。ここでは詳しく述べませんが、ポイントは次の7つです。
• AI(人工知能)
• マーケティングオートメーション
• カスタマージャーニーのマッピング
• タッチポイントマーケティング
• ペルソナマーケティング
• コンテンツマーケティング
• インフルエンサーマーケティング
私は新しい本を書き上げました。2024年半ばに出版される予定です。その本の各章で以下の8つのツールを紹介しています。
• AI
• 汎用型AI
• 機械学習
• IoT
• メタバース
• ブロックチェーン
• ドローン
• ロボティクス
いずれもマーケティングや営業部門の社員が知っておくべきツールです。一部だけ簡単に触れると、汎用型AIとは文章を書いたり、画像を作成したりと複数のタスクをこなすAIです。いわゆる生成AIとしてよく知られています。
たとえば、汎用型AIに対して「現在米国が直面している経済の4つの問題について、小論文を書いてください」と投げかけます。すると、あっという間に論文を仕上げます。あなた自身が内容を確認し、手直しする必要がありますが、叩き台としては十分です。
広告も作成してくれます。自分がつくった靴を売りたいとします。赤と青の2色のレザーが使われていて、靴底は赤です。その靴が「雲の上を動いている絵を描いて」と指示すれば、あとはAIが広告を作成してくれるのです。
こういった新しいツールを使いこなすには、新たなスキルセットを身につけなくてはなりません。そして、マーケティングミックスの新しいアイデアに精通することが求められます。