5年後も同じビジネスを続けていたら、廃業することになる
マーケティングには多くのセオリーがあります。アウェアネス(認知)、アクセシビリティ(利用・入手のしやすさ)、アクセプタビリティ(受け入れやすさ)、アフォーダビリティ(購入しやすい価格)の4つの視点で分析する「4A」、市場において独自のポジションを築くための「STP」(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)などです。
見込み客から、製品やサービスを繰り返し購入してくれるロイヤル顧客になるプロセスを表したものに「5A」があります。アウェア(認知)、アピール(訴求)、アスク(問いかけ)、アクト(行動)、アドボケート(支持)の5つのAです。まずは見込み客に認知させることが必要です。次に見込み客が製品に惹きつけられるようにアピールします。見込み客が何か質問をしてきたら適切に答えましょう。答えに納得すると見込み客は行動を起こし、一度製品を購入するでしょう。製品に満足すると顧客は購入を繰り返します。そしてロイヤル顧客となり、他者へも推奨してくれるようになります。
フィジカルとデジタルの顧客接点を組み合わせた5Aのプロセスを示したのが、下の図です。

出所:フィリップ・コトラー氏(©Philip Kotler)
5つのAは、それぞれが相互関係にあります。まずは新製品について発表するパブリックリレーションのアプローチから始めます。それを視聴した人がクチコミでほかの人に伝えてくれることを期待します。次にバナー広告を出します。さらにウェブサイトを作成し、製品情報を見られるようにします。そしてSNSを利用して、新製品を宣伝します。コンタクトセンターの存在も伝えます。そして、見込み客本人だけではなく、家族や友人、その人が利用している店舗にもアプローチします。ウェブコミュニティを始めてもいいでしょう。
このようにフィジカルとデジタル、両方のタッチポイントで見込み客をロイヤル顧客へと育てていきます。それが、企業がたどるジャーニーです。5つのAの周囲にあるタッチポイントは、ポジティブな真実の瞬間(Moment of Truth)か、顧客を失うマイナスの経験のいずれかです。
企業にとって必要なのは、3つの強力なマネジメントを担う人材です。顧客を熟知している「顧客マネジメント」人材、すべての製品やサービスを把握している「製品マネジメント」人材、そして世界中、あるいは事業展開している地域において「ブランドマネジメント」を担う人材です。
これらの人材を束ねるのがCMO(最高マーケティング責任者)です。CMOは次のことに長けている必要があります。成長への信念、データアナリティクス、パーソナライゼーションや最適化などです。
多くのCEOはマーケティングについて、深く学んでいません。それでも、CMOを選び、任命しなくてはならないので、その際は、ROMI(マーケティング投資収益率)を最大化できる人を選ぶことです。
最後に一言。5年後、あなたがいまと同じビジネスをしているようなら、あなたは廃業することになるでしょう。ビジネスも顧客も流通チャネルも変化するからです。
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フィリップ・コトラー氏による講演終了後、司会進行を務めたPwCコンサルティングの伊藤篤氏との間で質疑応答が行われた。その内容の一部を紹介する。
伊藤 最初の著書『マーケティング・マネジメント』に、経済学や人類学、行動科学などの知見を盛り込まれたとのことでしたが、テクノロジーと同じように学問も常に進化しています。これからのマーケティングは、異なる分野の知の統合を進めていくべきだとお考えになりますか。
コトラー ええ、そう思います。2023年に出版された私の著作『Entrepreneurial Marketing』(共著、未訳)では、オムニハウスモデル(Omnihouse Model)について述べています。オムニハウスとは、複数の要素を組み合わせた組織のことです。企業が競争力と適応力を発揮するには、マーケティングとファイナンス、創造性と生産性、起業家精神と専門性など異質な概念や知を融合させていかなければなりません。
伊藤 最後に、日本の経営者やビジネスパーソンに向けて、メッセージをお願いできますか。
コトラー 私は日本を何度も訪れています。一時期、米国は日本が世界中の市場を席巻するのではないかと心配していました。車や電気製品などあらゆる分野で優位に立っていましたからね。最近は、創造性がやや低迷しているようです。
私はいろいろな国を訪れて、マーケティングに関する新たな知見を得てきました。アジア諸国で講演する中で、中国や韓国、ベトナムなど各国から学んだことを近々、本にする予定です。
日本の方々も他国から学び、視野を広げ、目標を新たにし、競争力をつけてください。日本が再び、アジアのマーケティングのリーダーになることを期待しています。
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