柳澤 SMBCのリテールサービス全体としての体験価値を高めていくには、多岐にわたるチャネルやサービスで統一性、一貫性のある体験をつくり上げていく必要があると思います。その点についてはどう取り組んでいますか。

中村 デザインチームがリードして統一性、一貫性のある顧客体験の仕組みづくりを進めています。その一つが、SMBCデザインシステムです。

 従来は、新旧のデザインが混在していて、ブランディングや使い勝手の統一性が取れていない面があり、作業効率も悪いといった課題がありましたが、SMBCデザインシステムに則ってウェブサイトやアプリなどの制作を行うようになったことで、いまは配色やボタンの配置なども含めてUI/UXの統一性が取れています。

 また、リテールサービス全体の顧客体験を可視化したカスタマージャーニーマップを作成し、各種の機能やプロジェクトをマネジメントすることで一貫性を担保しています。

アジャイルとスローを組み合わせて、深く考え、検証する

柳澤 顧客体験の創造や変革を組織としてマネジメントしていくうえで、重要なポイントは3つ挙げられます。

 1点目は、特定の顧客一人に焦点を絞ったn1分析にどれだけこだわるかということです。顧客体験をつくるスタートラインは、お客様をよく知ることです。顧客を特定の集団に分類したクラスター分析は多くの企業が行っていますが、n1分析まで踏み込まないと行動の背景にある意思や生活スタイルの違いといったインサイトが見えてきません。n1にこだわる強い意志を持って深掘りできる人材とテクノロジーを備えることが、組織としての力になります。

 2点目は、ビジネスとデザイン、テクノロジーの三位一体です。これまでは、ビジネス部門がサービスを企画して、それに基づいてデザイナーがUI/UXをデザインし、エンジニアがテクノロジーを活用して実装するというウォーターフォール型の開発が主流でした。しかし、そのやり方だと顧客起点での体験をつくるのは難しい。企画構想段階から三位一体となって進めることで、デザイナーは顧客視点で体験をデザインできますし、エンジニアは新しいテクノロジーを使った体験の創造を提案できます。組織として、そうした開発体制を組むことが重要です。

 そして、3点目はアジャイル&スローです。顧客のニーズや課題に応じてプロトタイプをつくり、顧客からフィードバックを得て、すぐに改善するというアジャイル開発はかなり普及してきました。このアプローチはスピーディな改善には有効なのですが、立ち止まってゆっくり考え、深く検証するプロセスを組み合わせないと、本質的な顧客体験の創造や変革にはつながらないこともわかってきています。スローの部分で大切なのは、サイトやアプリ内の表現の工夫でKPI(重要業績評価指標)を上げる視点だけでなく、顧客行動をしっかりとデータで把握し、サイトやアプリの画面遷移やプロセス自体の大胆なつくり替えも含めて、抜本的に考える目線を持つことです。

中村 私たちリテールIT戦略部は、ビジネス部門であり、デザインチームを抱え、システムの企画開発や運用も行っています。その点では、柳澤さんがおっしゃった三位一体の組織となっています。

 冒頭で申し上げたように、5つのグループとデザインチームで構成されていますが、プロジェクトごとにグループ横断でアジャイルチームを立ち上げ、多数のプロジェクトを同時進行しています。その時に重要なのは、一人ひとりの判断の軸となる共通のビジョンを持つことです。組織全体として目指すところを一致させておかないと、提供するサービスや顧客体験がばらばらになってしまいます。

 リテールIT戦略部では組織としてのビジョンを毎年、メンバー全員で議論しながら決めています。2024年のビジョンは、「ユーザーの想像を超える銀行へ」です。ユーザーの想像の半歩先、一歩先のサービスや体験を自律的に開発し、提供したい。そういう新しいことをやろうとすると、いろいろな困難に直面します。それを乗り越えるためにも、組織全体で価値観とビジョンを共有しておくことが大事で、それがチャレンジへのモチベーションや覚悟を生むと思います。

柳澤 今後も、顧客から選ばれ続けるSMBCであるために、どのようなチャレンジをしていきたいとお考えですか。

中村 SMBCだけでも2500万を超える個人のお客様と取引があります。三井住友カードなどを含めたSMBCグループの膨大な顧客データをリアルタイムに連携し、AI(人工知能)などを駆使しながら分析・活用することができれば、デジタルマーケティングの高度化はもちろん、さらに利便性の高いサービスを提供することができます。

 新技術は日々生まれ、デジタルの世界は常に進歩しています。御社には引き続き技術的なアドバイスをいただきたいですし、デジタルマーケティングやAI・データ活用から人材育成まで、幅広い領域での知見の共有と支援をお願いしたい。我々に対してプロダクトを売り込むのではなく、SMBCとしてのあるべき顧客体験の実現に知恵と労力を振り絞る御社の姿勢はとても信頼できるものだと思っています。これからも、新しい顧客体験を一緒につくっていくことができれば、嬉しい限りです。

柳澤 住宅を買う、お子さんが生まれるといったライフステージや生活シーンが変わるタイミングで、適切な商品・サービスを利用してもらえれば、提供価値が最大限発揮されます。そのためにも、金融と非金融にまたがるサービスを提供し、生活に寄り添いながら顧客を深く理解し、変化を察知していくことが重要です。

 私たちはさまざまな業種の企業にプロダクトを提供し、そこで蓄積されたデータアセットやインサイトを有しています。しかし、プレイドは生活者の方々に直接サービスを提供しているわけではありませんので、我々の持てる力で御社を精いっぱいご支援することで、SMBCグループのお客様の人生をより豊かに、楽しくできるようなチャレンジをしていきたいと思います。

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