ONE PLUSに向けた
業務とITの一体化とデジタル人材育成
中山 PwCコンサルティングではDXに取り組む際の考え方として、“プロジェクト思考”から“プロダクト思考”への転換を提唱しています(図表2)。
従来、基幹システムなどの業務アプリケーションは「業務を支援するツール」という位置づけでした。そのため、業務側の要件に対応できるシステムを一定期間内に構築する「プロジェクト型」で実施していました。プロジェクト終了後、これらのシステムは時間の経過とともに陳腐化し、数年後に大規模な刷新が必要となる事態に陥っています。
しかしながら、デジタル技術が進化し、市場変化も激しい時代においては、基幹システムも「収益に貢献するプロダクト(製品)」であるという考え方にシフトする必要があります。このような考え方に基づけば、システムは利用者に価値を提供し続ける必要があり、そのために継続的改善を続けることが求められます。今回のプロジェクトも、新基幹システムを「ビジネスに貢献するプロダクト」と位置づけ、今後も継続的に発展していくことを前提としていると認識しています。

図表2 “プロジェクト思考”から“プロダクト思考”への転換
今泉 おっしゃる通りです。今回のプロジェクトは「コア」「ネクスト」「ドリーム」という3つのフェーズに分けており、システムを日々成長させることを想定しています。現在は「コア」の段階で、既存システムからの移行がメインですので、まだビジネスに貢献するプロダクトと胸を張って言える状況ではないかもしれません。ただし、その次のフェーズである「ネクスト」は、顧客に価値を提供するために、これまでやりたかったけれど諦めていたことを実現しようと考えています。ビジネスに貢献するための製品のような位置づけで、システムが進化していくことを期待しています。そして、「ドリーム」では顧客を驚かすようなアイデアを実装する計画となっています。「ドリーム」フェーズが社内に定着すれば今回の改革は成功だと考えています。
中山 プロダクト思考に転換するためには、業務部門とIT部門が一体となって取り組むなど、組織と人材のあり方も変えていく必要がありますが、プラスではどのように進めていますか。
今泉 将来的には、各事業にデジタル人材を配置し、IT部門が彼らを支援する形を目指しています。ただ、人材育成も時間がかかります。そのため、まずは事業カンパニーに所属していたデジタル人材を、デジタル統括部門に集約しました。そのうえで、タイミングを見ながらカンパニーに戻していくような方法を考えています。
山口 デジタル人材を増やすために、既存メンバーの育成だけでなく、スキルを持つ人材を数十人規模で採用しています。育成の観点では、従来事業ごとに属していたメンバーを、事業横断のドメイン単位(調達、物流、販売など)に分割したこともポイントかと思います。たとえば、以前文具事業に所属していたデジタル人材が家具事業に配属されれば、文具だけでなく家具事業の物流も知らなければなりません。さらには、調達や販売の知識も身につけようと思うでしょう。事業ごとで蓄積されたノウハウを共有し、サブドメインごとにアジャイルで開発を行うことで、メンバーが多くの経験を積むことができています。その結果、デジタル人材の育成が着実に進んできています。
ただ、みんなのDXという観点でいえば、現状は100点満点中の25点というところでしょうか。みずからすべてをコントロールするためには、少なくとも50点程度の能力が必要です。2~3年のうちにその水準に引き上げたいと思っています。

執行役員 パートナー
中山裕之氏
佐野 デジタル人材の育成という観点では、プラスが人事評価制度を見直していることも注目すべきです。企業が育成した人材が十分に評価されず退職してしまった、という事例は少なくありません。今回プラスはデジタル分野における「求める人材」の定義を見直し、その人材が報われるような人事評価制度に改定しようとしています。ここまで踏み込んだDXに取り組んでいる企業は限られ、今回は社長みずからがリードしているからこそできることです。あらためてDXは経営者が覚悟を持って取り組むことが重要であると再認識しました。

マネージャー
佐野友則氏
今泉 私自身、みんなのDXはITのプロジェクトではないと思っています。ONE PLUSを目指す企業変革であり、同時に人材育成でもある。だからこそ、社長である私が深くコミットしなければならないと考えています。
中山 プラスでは、基幹システム刷新でアジャイルを活用し、かつ社長みずからが先頭に立って全社改革を実現しようとしています。このような事例は、世界的に見ても珍しいと思います。基幹システム刷新は多くの企業で直面するテーマですが、ほとんどがIT部門主導です。基幹システム刷新こそが経営の重要テーマであると掲げ、プラスのように長期的な視点で人材育成も含めて取り組むことが大事だと思います。
我々もこの壮大な挑戦をともにできることに感謝しつつ、今回の変革が成功となるよう全力で伴走していきますので、引き続きよろしくお願いします。

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