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法人営業現場でのAI活用が広がりつつある。パターン化できるような業務はAIに任せ、人は高付加価値業務にフォーカスするという方向が模索されている。多くの日本企業のAI活用は業務効率化が先行しているが、今後は収益拡大につながる領域での活用を積極化すべきである。PwCコンサルティングは、AI活用に本腰を入れ始めた企業をさまざまな観点から支援している。
AI活用で日本企業は
米国に大きく遅れている
ビジネス環境が激変する中、企業の法人営業は大きな転換期を迎えている。その背景にあるのは、顧客の抱える課題の複雑化、要求の多様化、ライバルとの競争激化などである。こうした課題に対して「人手をかける」というスタイルで乗り切った時代もあるが、いまやあらゆる産業で人材不足が深刻化している。
「多くの企業にいえることですが、営業担当者の業務量は非常に多い。しかし、顧客とのコミュニケーションなど高付加価値業務に使っている時間は、全体の2~3割程度といわれています。ノンコアに分類できるような業務が相当あり、そこで、最近は各社がAI活用に積極的に取り組んでいます」と語るのは、PwCコンサルティング執行役員パートナーの小高一慶氏である。

執行役員 パートナー
ビジネストランスフォーメーションコンサルティング事業部
小高一慶氏
法人営業におけるAIおよび生成AI(以下、両方をAIと称する)活用のポテンシャルは大きい。すでに実用フェーズで成果を挙げている企業も少なくない。
「当社が日米の企業におけるAI活用状況を調査したところ、見えてきた傾向があります。米国企業が顧客体験やトップラインの向上などの効果を実現している一方、日本企業は効率化やコスト削減といった範囲に留まっています。このままでは、日米の差はさらに広がるのではないかと、大きな危惧を抱いています」と小高氏。そこで、PwCコンサルティングは日本企業の成長と収益拡大に資するAI活用の支援に注力している。
では、法人営業でどのようにAIを活用すべきか。まず、人とAIの役割を見極める必要があると小高氏は指摘する。
「AIが得意なのはパターン化/ルール化できる活動、スピードや正確性が求められる活動などで、スケーラビリティも高い。一方、人の強みは意味づけや感情理解・共感力、信頼関係づくりなど。いずれもAIには真似できない高度な能力です。人がAIを使いこなしつつ、顧客に向き合い中長期的な関係を強固なものにする。それが、目指すべき法人営業の方向性だと思います」
人の強みは他にもある。高度な交渉や意思決定、創造的な提案や新規市場開拓、チームマネジメントなどだ。こうした領域において、AIが有能なサポート役になる。さらに、最近ではAIの中でも、「AIエージェント」の進化が著しい。AIエージェントは、社内外のデータやシステムと連携しながら、複数のタスクを自律的に実行する。コンテンツ生成を目的として汎用的に使われる生成AIに対して、AIエージェントは特定のプロセスについてタスクの実行までを担う。もちろん、最終判断は人の役割だ。
「AIエージェントは、営業担当者の言わば部下のような存在として活用することができます。現在、数人の部下と一緒に法人営業に携わっている人は、いずれAIエージェントと協働しながら、一人で営業活動ができるようになるのではないかと思います」と小高氏。たとえば、AIエージェントが見込み客を探して優先度づけを行い、その見込み客に対してセミナー案内などのナーチャリングを実施。確度が高まった段階で、人にバトンタッチする、といった営業プロセスが可能になる。
AIエージェントが人の部下になる時代、組織の形態も大きく変化するだろう。多くの企業にはマーケティングやセールス、アフターサービスなどの機能別部門があり、各部門の業務を支援する縦割りのシステムにデータが分散している。AIエージェントが各システムにデータを取りにいく仕組みができれば、データの一元化が実現する。
「機能別分業を前提とした組織は顧客軸で再構築され、顧客ごとの長期的な収益最大化を全社で目指す方向にシフトするのではないでしょうか。営業担当者には単純なモノ売りからの脱却が求められます。これまでは受注前プロセスにフォーカスするのが一般的でしたが、受注後のカスタマーサクセスにも寄り添い、価値創造のパートナーになる。そして、顧客の長期的な成長をサポートする存在になる必要があります」と小高氏は見る。
AIエージェント活用と組織再編はマネジメントの形を変え、収益管理や人事評価のKPI(重要業績評価指標)をも変えるだろう。そんな時代を見据えた準備ができている企業は、まだ少数に留まっている。逆に、いまのうちから検討を始めれば、大きな優位性につながる可能性がある。