【HBR CASE STUDY】

[コメンテーター]
デイビッド・ワインバーガー(David Weinberger)戦略マーケティング・コンサルタント
パメラ・サミュエルソン(Pamela Samuelson)カリフォルニア大学バークレー校 教授
レイ・オジー(Ray Ozzie)グルーブ・ネットワーク 会長兼CEO
エリン・モタメニ(Erin Motameni)EMC バイス・プレジデント

[ケース・ライター]
ハレー・スート(Halley Suitt)ヤーガ・ドットコム 顧客開発ディレクター

*HBRケース・スタディは、マネジメントにおけるジレンマを提示し、専門家たちによる具体的な解決策を紹介します。ストーリーはフィクションであり、登場する人物や企業の名称は架空のものです。経営者になったつもりで、読み進んでみてください。

閑散とした新製品発表会

 使い捨て手袋やその他の医療品の製造・販売を手掛けるランカスター・ウェブ・メディカル・サプライのCEO、ウィル・サマセットは一人になって思案する時間を必要としていた。

 早朝のジョギングにでも出かけて走りながら考えようと、ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート内のホテル・スワンを囲む青々とした芝生の端に足を運んだところ、まだ朝の6時だというのに、ありがたくない連中が視界に飛び込んできた。彼の視線の先には、ミッキーマウスとミニーマウスが大きい手を振りながらこちらに笑いかけていた。

 サマセットは微笑みを返すどころか、顔をしかめた。いま彼は100億ドルの売上げと有能な社員を失いかけている。それも同じ日に──。膝の屈伸運動を終えるとグラウンドを回り始め、ミッキーとミニーを頭から追い出し、前日の出来事を回想した。

 業界の集まりはたいてい張り詰めた雰囲気であるとはいえ、今回ほどピリピリしていたことはかつてなかった。ランカスターは、使い捨て医療品分野で圧倒的な知名度を誇るブランドであり、ここでニトリル製の手袋を発表する手はずになっていた。

 この手の製品発表はサマセットが得意とするところだった。同分野における30年間のキャリアを通じ、通商会議で彼ほど多くのスピーチと製品発表をこなしてきたCEOはまずいない。ただ、昨日の発表会の出席者はまばらであった。